団塊世代が75歳以上となる2025年に向け、医療提供体制の再編が各地で進められている。その設計図とも言える「地域医療構想」を策定した都道府県では今後、同構想の実現に向け、地域ごとに関係者の協議がスタートする。病院同士の連携が重視される時代とはいえ、急性期機能の病床が多過ぎる地域では、病院経営者が機能の転換を押し付け合い、時に火花を散らす可能性もある。まさに、公立病院や公的病院など「民間じゃない」病院であっても、生き残り戦略が求められる時代の到来だ。「民間じゃない」病院のトップらが見据える25年の姿を取材した。 |
国立病院機構が運営する全国143施設の病院(機構病院)では、それぞれが地域の医療需要を調べた上で、25年までの中間点に当たる20年のあるべき姿を模索している。同機構の楠岡英雄理事長は、7対1の施設基準の届け出を目指すような単一の経営戦略が通用しない時代になっていると指摘。グラスルーツ(草の根)の取り組みを本部が支援することこそが、すべての機構病院が地域から必要とされ、生き残る未来につながると考えている。【聞き手・構成=佐藤貴彦】
私は、国立病院機構大阪医療センター(大阪市中央区、692床)の院長を9年務め、理事長には今年4月に就任しました。04年に独立行政法人の国立病院機構ができてから3代目の理事長ですが、“内部昇格”は初めてです。
福井・滋賀・京都・大阪・兵庫・奈良・和歌山の7府県には、機構病院が20施設あります。私はその取りまとめ役の理事も務めましたが、その中で、機構病院にはさまざまなタイプがあり、地域ごとに事情があると実感しました。理事長に任命されたのは、これまでに培った現場感覚が求められる局面だからだと認識しています。
■従来モデルが通用しない時代、赤字の危機
国立病院機構の経常収支率は、04年度が100.03%で、それ以降、昨年度までずっと黒字を続けています。特に10-12年度は105%を超えるほどでしたが、13年度から低下し、昨年度は100.1%でした =グラフ= 。まさに、独法になったころに戻った形です。このままベクトルを伸ばして赤字になるのは、何としても防がなければなりません。
経常収支率が下がっているのは、従来のビジネスモデルが通用しなくなっているためだと考えられます。
独法になる前は職員数が厳しく制限されていたため、医療の内容が10対1レベルでも、看護職員がいないために13対1を算定しているといった状態でした。独法になって、職員数については各病院の状況などに応じた弾力的な運用とし、医師や看護師を増やせば10対1や7対1を届け出できました。当時は、7対1などの「上位基準」の取得による収益の伸びが人件費の伸びを上回ったため、経営改善が順調に進んだのです。
しかし、7対1の要件は改定ごとに厳しく見直され、今や算定する病院を増やし続けるのが難しい状況です。また、国立病院機構では人事院勧告を参考に職員給与を決めていますが、その水準が年々上がっています。たとえ7対1を取得しても、人件費がかさみ、以前のような経営改善効果が期待できない状況です。
■地域に期待される役割をどう考えるか
つまり、7対1を目指すような単一のモデルからの転換が求められています。そこで、赤字転落を回避するため、そして、地域包括ケアシステムが完成する25年に、各病院が地域で必要とされる病院でいるために、すべての機構病院にお願いしていることがあります。
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