【特定医療法人成仁会くまもと成仁病院 事務部医事課係長 山下如子】
くまもと成仁病院は、一般病棟37床(13対1)、回復期リハビリ病棟45床、医療療養病棟98床、介護療養病棟42床を有するケアミックス型の病院(計222床)である。法人として、在宅生活を支える居宅総合支援センター(指定居宅介護支援事業所・通所リハビリ・訪問看護ステーション・ヘルパーステーション・訪問リハビリ・通所型介護予防室)のほか、介護老人保健施設を運営している。
■本震でライフラインがダウン、水没したカルテ
4月14日の前震では、揺れは大きかったものの被害は小さく、院内の備品類が散乱する程度であった。しかしながら、16日未明の本震で病院のライフラインすべてがダウンしてしまった。
建物内部は壊滅的な被害に見舞われ、5階リハビリセンターの天井が崩落。消火設備や入浴設備の配管が破損し、中央階段からは大量の水が滝のように流れ、2-4階の各病棟と1階の床は水浸しになった。カルテや各種書類は棚が倒れて水没してしまい、医療機器類やパソコンは水漏れによる故障で、一部使用不能となった。
■ライフライン断絶の中での患者対応
こうした中、まずは入院患者の安全確保が最重要課題である。
本震は未明に発生しており、先に述べたようなライフラインの寸断は、患者と職員の恐怖を助長した。当院は、病態や要介護度の重い患者が多く、避難誘導しようにも余震が続く中では危険性が高い。比較的安全な食堂に一斉に集合し、余震に耐えた。ヘルメット代わりに毛布やおむつで患者の頭部を保護するなど、看護師の機転によって負傷者ゼロで乗り切った。
水道・電気などのライフラインが断たれたため、入院患者の食事提供は、すべて非常食となり、使い捨てのディスポ食器やカセットコンロなどで対応することになった。本震当日は、朝食と夕食の2食しか配膳できず、その後のメニューも、朝食はおにぎりと漬物・豚汁、昼食はパン・ジャム・牛乳、夕食はカレーライス・野菜ジュースなど、通常献立とは程遠いメニューしか提供できなかった。さらに、各階病棟への食事配送エレベーターが使用不能であったため、1階調理室から1食ずつ運んで配るという人海戦術を強いられた。また、入浴設備も損傷し、清拭対応で入院患者の清潔保持を行わざるを得なかった。
このような状況であっても、喀痰吸引など必要な医療行為は行った。リハビリに関しては、5階リハビリセンターが壊滅的な被害に遭っていたため、病室内でのリハビリ訓練のみを行った。外来患者への投薬については、製薬会社の薬品庫が倒壊し、医薬品の供給が滞ってしまったため、受診者に対しては当初、日数制限を行って薬を処方した。慢性的な疾患を持つ患者は、続く余震の中を来院することに不安を覚え、「通常通り処方してほしい」という訴えもあったが、状況を個別に説明し、7日分処方にて対応した。
震災関連の入院依頼も多数あったが、あまりの多さに、重篤な患者以外は断らざるを得なかった。これを踏まえ、4月19日からは入院患者のベッド数を一時的に増やし、急性期病院等からの転院調整や避難所からの搬送患者の受け入れ態勢を整えた。
こうした患者対応の一方、病棟内の散乱した備品やはがれた壁などの片付け、水浸しになっているフロアの清掃も職員全員で始めた。水没したカルテは、ドライヤーを使って一枚一枚乾かした。電気は割と早い段階で復旧したものの、水道復旧には時間がかかった。
【熊本地震:被災病院からのリポート】
今も入院休止、損壊した災害拠点病院-熊本市民病院①
「この病院がなくなりませんように」-熊本市民病院②
震災後の厳しい収入シミュレーション-くまもと森都総合病院
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