高齢者市場が拡大し続ける中、大きな可能性を秘めた“新大陸”として注目される介護保険外サービス。シリーズ「介護ビジネス新大陸」では、この分野に積極果敢に乗り出す開拓者を取り上げていく。今回、注目するのは葬儀を前に遺体の体を清めたり、化粧を施したりする「エンゼルケア」の老舗、ケアサービスだ。介護保険が誕生する前から「故人の尊厳の尊重」という旗印を掲げ、市場をけん引し続けている同社の責任者と現場担当者に取材した。【ただ正芳】
ケアサービスのエンゼルケア事業で勤務し、今年で入社7年目となる堀籠夏紀さんは、これまでに約7000人の手当てを行ってきた。手当てとはエンゼルケアサービスの一環として、病気や事故によって、見た目が変わってしまった故人をメイクなどで生前の姿に近づける作業を指す。入社前には専門学校で特殊メイクの技術を学んだという堀籠さんだが、彼女の手当てが、ある女性とその両親との別れの形を変えたことがあった。
■娘の葬式を拒む両親の心を動かしたケア
亡くなったのは20歳代の女性。仮にAさんとする。Aさんの顔は、事故で半分失われていた。その姿を一目見た両親は、「Aちゃんじゃない…」とつぶやき、愛娘の遺体に近寄ろうとしなかった。そして通夜も葬式も行わず、このまま骨にしてあげたいと言い出した。
娘を知る人には、きれいな思い出を残したい。だから、変わり果てた姿は、誰にも見せたくない。誰よりも娘のために―。
両親のその思いを感じ取った堀籠さんは、意を決して手当てを開始した。生前の写真を参考に失われた骨格と肉を復元し、血糊で汚れた髪を洗い、服を着替える。この手当ては3時間に及んだ。
施術後、堀籠さんは、「もう、見たくない」と立ちすくむ両親に、頼み込むようにしてAさんの姿を見てもらった。
「『…あれっ?いつものAちゃんだ…』。そう言ってご両親は改めてご遺体を凝視されました。そして、これならばと、お通夜もお葬式も、改めて執り行うことを決められました」(堀籠さん)
ケアサービスのエンゼルケア事業では、直近の3年間でおおよそ10万人のケアを手がけてきた。2016年3月末時点の事業所は東日本を中心に20カ所、スタッフ数は202人。エンゼルケアに加え、遺品整理などを行うクリーンサービスにも取り組んでおり、エンゼルケア全体における16年3月期の売り上げは16億8400万円、全社費用などを含んでいないセグメント利益は4億1300万円となった。ケアサービス全体の中でも20%余りの売上高を占めており、同社の成長の確かなエンジンとなっている。
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