2012年度診療報酬改定に向け中央社会保険医療協議会(中医協)は、診療報酬点数の配分をめぐる議論を今月中旬にもスタートさせる。最大の焦点は、限られた財源をどう有効活用するかだ。中医協でのこれまでの審議状況を整理した。(兼松昭夫)
全国のDPC対象病院を、「大学病院本院群」「高診療密度病院群」(仮称)と「その他の急性期病院群」の3グループに分類。DPC対象病院の基本的な診療機能を評価する「基礎係数」を、それぞれの診療実績に応じてグループごとに設定することになった=表1=。
厚生労働省は、12年度を含む何回かの診療報酬改定で、現行の調整係数を基礎係数に置き換えたい考えで、最終形に移行し切るまでは調整係数による暫定的な評価を残す。最終形に何年後に移行させるかは、1月以降に中医協で話し合う。
3グループのうち高診療密度病院群に位置付けるのは、▽診療密度(一日当たり包括範囲出来高平均点数)▽高度な医療技術の実施▽医師の研修機能▽重症者に対する診療機能-の要件をすべて満たす病院。
ただ、国立がん研究センター中央病院と国立循環器病研究センターについては、このうち医師の研修要件を免除する。これら2病院は、高度な医療の研修を求められる特定機能病院として承認されており、一定の研修機能を既に担保しているとの判断からだ。
機能評価係数2の12年度の追加導入は見合わせた。ただ、現行6項目のうち3項目による評価の仕組みを見直す。「地域医療指数」に関しては、従来の体制面に加え、実際の貢献度を評価する仕組みにする。
DPC対象病院をグループ分けした後は、6項目のうち「データ提出指数」と「効率性指数」を各グループに共通の評価に位置付ける。一方、地域医療指数と「複雑性指数」「カバー率指数」「救急医療係数」の4項目の評価は、それぞれの役割などに応じてグループごとに設定する。
■急性期看護補助体制加算「25対1」新設へ
急性期病院による看護補助者の配置を評価する急性期看護補助体制加算について、現行で最高の「50対1」より手厚い区分をつくる方向で検討する。昨年12月7日の中医協総会で厚労省は、「25対1」を新設する一方で、「50対1」と「75対1」の点数は引き下げることを提案した。
急性期看護補助体制加算は、急性期病院に勤務する医師の負担を軽減することを目的に、10年度の報酬改定で導入された。「7対1」か「10対1」の看護配置を取る一般病棟や専門病棟、特定機能病院が算定対象。重症患者が一定割合以上いる病棟に看護補助者を配置すると、80-120点を最大14日間算定できる。
現在は、「50対1」(一日120点)と「75対1」(同80点)があるが、厚労省の調べでは、「50対1」を算定している一般病棟7対1の57.5%が、診療報酬の評価がない「25対1」の体制をクリアしていた。
厚労省はまた、病院が届け出ている入院基本料の看護配置を上回る分の看護師や准看護師を、「みなし看護補助者」として看護補助者に上乗せしてカウントできる現行ルールの見直しも提案。さらに、「勤務負担軽減および処遇の改善に対する体制にかかる届け出様式」と同様の様式を看護職員にも導入し、同加算の算定要件に加える方向性も示している。
看護補助者に関しては、厚労省が11月11日の総会で、看護職員の訪問看護に同行した場合に評価することを提案。見守りや排せつ援助など、看護職員が行わなくてもよい業務を分担することが狙いで、委員から特に異論はなかった。
■医療クラーク加算は「30対1」を新設へ
12月7日の総会で厚労省は、医師の事務作業を補助する医療クラークを、一般病床の数に対し「30対1」などに配置した場合の評価を新しく設定することを提案した。
医療クラークの配置は現在、「100対1」から 「15対1」までの6区分を138-810点で評価している=表2=。
しかし、医療現場からは「『50対1』の配置では不十分だが、『25対1』までクラークを集めるのは難しいケースもある」などの声があり、現在よりも区分をきめ細かくすることにした。一方で、「75対1」の点数引き下げや「100対1」の廃止も検討する。同省保険局の鈴木康裕医療課長は同日の総会で、これらの手薄な配置について、「使命が少しずつ終わりつつある」との認識を示した。
■NST加算、療養病棟にも拡大
一方、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士らのチームによる栄養改善の取り組みを評価する「栄養サポートチーム加算」(NST加算、週一回200点)については、看護配置が「13対1」と「15対1」の一般病棟や、療養病棟にも算定を認める方向だ。NST加算は、病院勤務医の負担軽減につなげるため、10年度の報酬改定で新設された。現在は、看護配置「7対1」と「10対1」の一般病棟しか算定できない。
同日の総会で厚労省が算定対象の拡大を提案。意見交換では、診療側の西澤寛俊委員(全日本病院協会長)が精神科病棟への拡大も求めたが、嘉山孝正委員(国立がん研究センター理事長)は、「そこに(財源を)付けるぐらいなら、ほかに回すべきだ」と訴えた。
病院勤務医の負担軽減につなげる加算には、急性期看護補助体制加算、医療クラーク加算やNST加算など現在は8つがあり、12年度の報酬改定では、産科や小児科関連の点数を追加することを検討する。厚労省はまた、医師の交代勤務制の導入の検討や、当直明け医師による予定手術を避けることを負担軽減の取り組みに加え、これらの加算を算定する病院にこうした取り組みを求める方向性も示した。
■薬剤師の病棟業務も評価へ
病院勤務医や看護師の業務負担の軽減につなげるため、厚労省は同日の総会で、薬剤師による病棟業務を評価することを提案した。具体的な業務として、▽患者の状態に応じた処方の提案▽患者が持参した薬の確認・評価と、それを考慮した服用計画の提案―などを想定している。一定以上の時間を病棟で勤務することを評価の条件にする見通しだ。
同省の調べでは、勤務医の負担を軽減するために薬剤師を病棟に配置したり、薬剤師との業務分担を進めたりする施設の半数以上が、これらの取り組みに「効果があった」と回答している。同省では、薬剤師の病棟業務を推進すると、医療安全の確保や薬剤費の節約などにもつながるとみている。
ただ、こうしたことに取り組む施設は全体の半数に満たず、実施していても、病棟での勤務時間は一週間当たり8時間に満たないケースが大半。このため同省では、「薬剤師が十分に活用されているとは言い難い」と指摘している。
■一般病棟の長期入院の評価に医療・ADL区分を導入へ
13対1や15対1入院基本料を算定する一般病棟に、90日を超えて長期入院する患者の評価方法として、医療区分やADL(日常生活動作)区分を用いた医療療養病棟と同じ報酬体系を導入することを検討する。厚労省が11月25日の総会で提案した。同省は、長期の入院患者が比較的多い一般病棟について、将来的には長期療養病棟へ移行するのが現実的との認識を示している。
一方、長期入院患者が少ない場合には、急性期・亜急性期病棟に移行させるため、「特定除外患者」も平均在院日数の計算に含める案を提示。同省は、これらのどちらかを「病院の実情に応じて」選択できる仕組みにしたい考えだが、診療側の鈴木邦彦委員(日本医師会常任理事)は、「経営に大きな影響を及ぼす」と慎重な対応を求めた。
医療療養病棟については、入院患者を受け入れた後に褥瘡が治っても、一定期間は診療報酬を高いまま維持することを提案している。現在の仕組みでは、入院時に褥瘡がある患者は「医療区分2」に位置付けられるが、褥瘡が治ると、より軽度な状態の「医療区分1」に入り、報酬は減額となる。
同省の提案は、褥瘡からの回復後に医療区分が変更されたとしても、一定期間は入院基本料の減額を抑えるというもので、急性期を過ぎた患者の療養病棟による受け入れを促すのが狙いだ。
入院基本料に関してはほかに、入院日の評価も論点になっている。同省によると、金曜に入院したり、月曜に退院したりした患者は入院期間が長引く傾向にあるという。また、退院日には食事の提供が1回以内の病院が大半を占めている。このため、退院日については昼食前までの短時間を評価の対象にすることも検討する。
■回復期リハ病棟入院料1の再編を検討か
「回復期リハビリテーション病棟入院料1」を算定する病棟のうち、看護職員や専従のリハビリスタッフを手厚く配置し、重症患者に対応している場合の評価を充実させる方向だ。入院料1の再編や加算の新設などを検討するとみられる。
回復期リハビリテーション病棟入院料には1と2があり、点数が高い入院料1は「直近6か月以内に新たに入院した患者の2割以上が重症者」などが要件。厚労省の調べでは、10年5月現在、重症者の割合要件などがない入院料2を算定している病床数が7018床なのに対し、入院料1は5万2984床と多い。ただ、入院料1の届け出病棟が実際に受け入れている入院患者のADLにはばらつきがあり、看護職員や専従リハスタッフの配置が手厚いと復帰率が高まる傾向にある。
11月25日の総会では、亜急性期入院医療管理料と回復期リハビリテーション病棟入院料について、病室と病棟の違いを考慮した上で、患者の状態に合わせた同等の包括範囲や点数を設定することを同省が提案。これに対し診療側は、それぞれの役割が異なると指摘し、慎重な検討を求めた。
一方、心大血管疾患リハビリテーションなど疾患別リハについては、早期から実施すると算定できる「早期リハビリテーション加算」を見直し、「発症または手術後14日目」までの実施を手厚く評価する方向だ。疾患別リハの早期加算は、現在は「発症または手術後30日目」までに1単位実施するごとに45点を算定できる。これに対し見直し後は、14日目までを「早期加算1」として手厚く評価する一方、その後は「早期加算2」に位置付けて点数を引き下げる見通し。
また、疾患別リハのうち「脳血管疾患等」と「運動器」の維持期のリハビリは、12年度の報酬改定で「ふさわしい評価」に見直す。鈴木医療課長は12月7日の総会で、「維持期のリハビリテーションを医療(保険)で見るのは、原則的には次回(14年度)の改定までとさせていただく」と述べた。
12年度の介護報酬改定に向け、短時間型通所リハ(1時間以上2時間未満)を強化する方向で審議が進められており、これによって介護サービスの受け皿がどれだけ充実するかを確認した上で、最終判断する。
■同一日の複数科受診、再診料の扱いが論点に
同じ医療機関の複数の診療科を一日に受診した場合、初・再診料の算定回数が制限されている現状について、厚労省は11月30日の総会で、2つ目の科目の再診料に限って一定割合を算定できるようにすることを提案した。
意見交換では、医師の技術料としての必要性を訴える診療側に対し、支払側は評価対象に一定の制限を設けるよう主張。議論がかみ合わず、引き続き話し合うことになった。
同じ日に複数の診療科で患者が再診を受けた場合、現在の仕組みだと、医療機関は1回分の再診料しか算定できない。
このほか同日の総会では、入院中の患者が検査などのためにほかの医療機関を受診した際、入院側の診療報酬を減額する現行ルールの取り扱いも議論のテーマになった。同省は、精神・結核病床や有床診療所の入院患者が他施設の透析を受ける場合に限り、減額幅を縮小する案を示し、大筋で了承された。具体的な減額幅は今後、議論する。
■要介護者の訪問看護に医療保険-厚労省が提案
入院中に要介護認定を申請した患者が退院した場合、要介護度の判定が下りるまでは指示書に基づいた訪問看護を医療保険で可能にすることを、厚労省が11月11日の総会に提案。これに対して診療側の賛否は分かれ、支払側からは「医療保険と介護保険の原則を変えるのか」などと疑問視する意見が出た。
入院中に要介護認定を申請しても、要介護度が判定されるまでに平均31日かかるため、在宅移行の準備期間に当たる退院後の2週間程度は、医療保険により訪問看護を提供するという提案。鈴木医療課長は、「入院していなければならないような医療ニーズを、在宅に持ち込むことではない」と強調した。
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