世界有数のアクセスの良さを誇るはずの日本の医療が、新型コロナウイルスの感染拡大で揺らいでいる。その背景にある要素の一つとして指摘されるのが、過剰に整備された病院・病床を医師や看護師がカバーし切れない「低密度医療」の存在だ。データ分析を駆使し、病院経営コンサルティングを行う「グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン」(GHC)では、ドラスチックな改革によって現場のコスト意識を呼び覚ませるかどうかが、この国の医療の未来を分けるとみている。
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●グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン 渡辺さちこ社長/アキよしかわ会長
【聞き手・構成/兼松昭夫】
■中等症受け入れ困難、背景に「低密度医療」
新型コロナの感染拡大は首都圏などを「第5波」が襲い、メディアが「医療崩壊」を盛んに伝えている。
政府は、手厚い治療が必要なはずの中等症の感染者に自宅療養を求める方針を一時打ち出した。それが批判されると「原則入院」に方針を切り替えたが、患者の搬送先が見つからないなどの混乱が報道されている。
諸外国に比べて医療のアクセスが格段に良いといわれるこの国で、こうしたことがなぜ起きるのか。医療提供体制のデータを諸外国と比べると、日本の医療の弱点が見えてくる。
まず、人口に占める病院の病床数だ。長期入院や精神科の病床を含めると、人口千人当たり病床数は日本が12.8床(2019年)で、韓国の12.4床(同年)と並びOECD(経済協力開発機構)加盟国の中で飛び抜けて多い=図1=。
病院数も同じような傾向だ。日本には人口100万人当たり65.8カ所(19年)の病院があり、韓国の77.7カ所(同)に次いで多い。
図1 人口千人当たり病院病床数の国別比較
OECDのデータを基にCBニュース編集部作成
医師の配置はどうだろうか。日本の人口千人当たり医師数は2.57人(18年)で、OECDの平均3.5人よりも少ないが、米国の2.77人(19年)に比べて遜色はない。しかし、病床当たりの医師の配置は非常に手薄だ。OECDヘルスデータを使って計算すると、日本の1床当たり医師数は0.19人で、韓国と共に最も少ない。トップのスウェーデンでは医師2人が1床をカバーしているが、日本と韓国では1人が5床をカバーしていることになる。
一方、人口に占める看護師数は、日本はOECDの平均を上回っている。しかし、1床当たりの配置はイギリス3.16人、フランス1.83人、ドイツ1.65人に対し、日本は0.91人と1人に満たない手薄さだ。
このことは、医療の提供に病院や病床の整備が不可欠だとしても、それが行き過ぎると医療が低密度になることを意味している。日本では、過剰に整備された病院や病床に医療従事者が薄く広く分散している。これでは手厚い医療を提供するのは難しい。われわれはそれを「低密度医療」と呼んでいる。
新型コロナは日本の医療のそうした弱点をあぶり出した。
GHCでは、全国の325病院から11月16日-12月15日に退院した新型コロナの感染者7,484人(疑いは含まない)の入院データを分析した。その結果、
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