地域包括ケアシステムの構築に向け、国策として推進されている在宅医療。約1万5000施設が在宅療養支援診療所になるなど、一定の成果が見える。しかし辻彼南雄・ライフケアシステム代表理事は、「在宅医療のことを知っている患者はほとんどいない」と指摘。根強い病院志向を放置すれば、2025-40年に“看取り難民”が現れると警鐘を鳴らす。【佐藤貴彦】
訪問診療は水道橋東口クリニック(東京都千代田区)から提供しており、辻氏はその院長も務める。佐藤氏との出会いをきっかけに、在宅医を約27年続けている。
■40年には167万人が亡くなる
医療・介護サービスの提供が不足し、十分な看取りを受けることができない“看取り難民”はショッキングな問題だ。
厚生労働省によると、昨年の死亡数は129万444人で、前年と比べ1万7440人増えた。死亡数は、高齢人口の増加などを受けて増え続け、40年には約167万人に膨れ上がると推計されている =グラフ1= 。
昨年病院で亡くなった人は96万2597人で、全体の74.6%を占めた。この状況を踏まえれば、死亡数の増加への対策として、まず病院のベッドを増やすことが考えられる。しかし、病棟を新設すれば建築コストが掛かるし、維持コストもかさむ。現実的には難しい。
そこで国が打ち出した対策は、在宅看取りを普及させ、死亡数の増加分をカバーするものだ。しかし、昨年自宅で亡くなった人は16万3973人(12.7%)で、その割合は前年と比べ0.1ポイント低下。病院で亡くなった人数には程遠い =グラフ2= 。
在宅医療を提供する体制の整備が進んでいるにもかかわらず、在宅看取りが増えないのはなぜか-。辻氏は、その答えが死亡の場所の割合に表れていると指摘する。「日本では、医療といえば病院医療だ。専門家の間で知られるようになっても、一般市民で在宅医療を知っている人は1割くらい。それ以外の人は『病院で死んだ方が安心だ』と思っている」。
■地域包括ケアは“災害 ” に強い街づくり
辻氏は、「医療=病院医療」というイメージは悪くなく、日本の病院が患者に信頼されている証しだと話す。しかし、病床数は限られる。本格的な“多死社会”が到来し、そうした患者が病院に殺到すれば、一部が受け入れを断られるのは明白だ。「高齢者が行き場を失う。このままでは危ないと、一般市民に伝えないわけにはいかない」(辻氏)。
また、増加する高齢者の生活を支える地域包括ケアシステムは、在宅医療に在宅介護、地域住民の自身の健康づくり活動などを合わせたものだ。逆に言えば、一般市民の協力を得られなければ完成しない。
「(高齢化の)波が押し寄せる。地域包括ケアシステムは、“災害”に強い街づくり。一般の人の協力が不可欠だ」と辻氏は訴え掛ける。
■在宅医療やらざるを得ない時代に?
むろん、この「街づくり」には病院も参加が求められる。訪問診療や訪問看護の提供に乗り出すほか、在宅医を養成すれば、「受け入れを断って悪くなった地域住民の信用を取り戻せる」と辻氏は指摘する。
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