年間40兆円もの医療費の配分を決める中央社会保険医療協議会(中医協)。その前会長が中医協の内幕を明かした「会議の政治学Ⅲ」(慈学社)が、一部の関係者の間で話題となっている。著者は東大名誉教授で、国立社会保障・人口問題研究所所長の森田朗氏。2011年春から4年間にわたり、会長として議論を取りまとめた。在任中に見た中医協の実像とは―。森田氏に話を聞いた。【聞き手・敦賀陽平】
大学に勤めていたころ、とにかく会議が多かった。非常に非効率で、時間を無駄に使っていると思わせるものもありました。そして、「なぜそうなのか」「何とかならないのか」と考えるようになり、10年前に一冊目を書いたんです。
その後も相変わらず会議が多くて、あの時に書き切れなかったことを、2年前の暮れに2冊目として出しました。そのころ、ちょうど中医協の会長を務めており、本業が政治学者なもので、政治の最も重要な場面での意思決定、合意形成の行方に関心がありました。
少し語弊があるかもしれませんが、中医協は会議研究の材料として“面白い”。民主主義の初歩的な教科書では、「みんなで話し合って、納得して一番いい結論を得る」と書かれています。しかし、現実は必ずしもそうではありません。出席している委員がどのように行動し、その結果どうなるのかという意思決定のプロセスを描きたいと思ったんです。
―他の審議会でも委員の経験がありますが、中医協はどこが違うのでしょうか。
委員の利害が激しくぶつかります。普通の審議会だったら、「そんなことはしないだろう」と思うような“場外乱闘”もある。出席している委員は、それぞれの団体を背負っているので、何とかして自分の主張を通したい。その時、他の審議会では見られないような行動を起こすのです。「やはり40兆円を動かす審議会は違うな」と思いました。
―利害関係の中で主張し合う、委員の人間模様が“面白い”と。
そうですね。
■事前説明も、全く予想外の展開に
―“場外乱闘”の例として、 再診料の引き上げをめぐり、 診療側が退場した10年度改定の一幕を挙げています。こうした駆け引きは、他の会議では見られないのですか。
時々そういうことは起こりますが、中医協ほどではありません。かつて、コメなどの価格を決める「米価審議会」(農林水産相の諮問機関)というものがありました。こちらも関係者間の対立が厳しい審議会として知られていましたが、コメの自由化に伴って廃止になりました。
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