【熊本市立熊本市民病院 医事課施設基準室 飯塚正美】
市立熊本市民病院(熊本市東区、556床)は、がん医療や周産期医療などの高度医療を提供し、災害拠点病院としての役割も担うべき地域の中核医療機関である。しかし、熊本地方を震源とする震度7の揺れが二度襲った「平成28年熊本地震」(以下、熊本地震)によって、当院は建物・設備に甚大な被害が発生し、現在も入院診療の困難な状況が続いている。
この大地震に際して、当院がどのような決断をし、行動をしたのか、現場で実際に活動した一職員の目で追っていきたい。
■4月14日夜、「前震」の発生
「前震」が発生したのは4月14日午後9時26分。当直や残業をしていた職員以外、私も含めてほとんどの職員は自宅にいた。外に出ると、多くの住民が家から這い出したまま呆然と空を見上げていたのが印象的である。
発生の瞬間からすぐに行動しても、病院に駆け付けるまでに1時間を要した。家族を安全な所まで避難させてから原付バイクで病院に向かう途中、道路が割れて水が噴き出している個所や住宅の外壁が崩れ落ちて道をふさいでいる個所が幾つもあった。
病院に到着すると、たまたま残業をしていた事務職員がすでに災害対策本部を設置。運の悪いことに院長は学会で出張中だったものの、代わって副院長と事務局長が迅速に指揮を執っていた。
当院は古い順に南館、北館、新館と3つの建物で成り立っている。南館は旧耐震基準のままで、北館も経年劣化していたことから、建て替えを予定していたのだが、資材高騰のあおりを受けて計画の練り直しを余儀なくされていた。
そうした状況で起きた「前震」だったが、震度6弱の揺れに対して南館・北館は共に耐えた。壁などに亀裂は生じたものの、ライフラインは支障なく、新館も1階エレベーター付近の天井が一部崩落したが、応急処置と立ち入り制限によって「患者受け入れ可能」と判断。トリアージセンターを開設し、問題なく災害診療モードを展開していた。ただ、職員数が少ないことを除いて…。
■災害診療開始も、職員が足りない!
トリアージセンターは正面玄関前と時間外受付付近の2カ所に設置し、重症患者は救急外来へ、中等症患者は内科外来の待合室へ、軽症患者はリハビリ室へとそれぞれ搬送していくのだが、日ごろの「災害医療福祉訓練」と違って職員の参集率が低い中では、思うような連携は取れない。一番困ったのは、トリアージタグの書き方を知らない医師と、訓練に参加したことがない事務職員の2人しかトリアージセンターにいない時であった。「自分が知らなくても、誰かが覚えていてくれるから大丈夫」という防災意識の甘さが、こうした時に露呈する。
その間にも余震は繰り返し襲い、おそらく病棟の看護師は入院患者の安全を確保することに必死だっただろうと思う。災害時に職員数が足りないという状況も想定できたはずだが、誰もが自分の身に振り掛かるとは思っていなかった。それでも、必死に何か役に立とうと走り回る若い職員もいて、皆が不安を抱えている中、頼もしく思えた。
明け方になると、遠くから歩いて来た職員も増え、余震も落ち着いてきた。さらに、昼すぎには出張先から急いで戻った院長の下、災害対策本部の指揮系統も十分に機能し始めた。ベテランの医師と看護師がてきぱきと救急外来の患者を受け入れ、最終的にトリアージセンターで受け付けた患者数は、重症患者16人、中等症患者59人、軽症患者241人、死亡1人の計317人(うち30人が入院)であった。
次回配信は7月13日5:00を予定しています
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