座間総合病院「チーム医療で患者第一実現」
田所・総合診療科部長
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座間総合病院シリーズ
第1弾 「座間の新病院、総合診療科を前面に」
第2弾 「病院辞めていた1年間が看護の幅広げた」
第 3 弾 「病院は目指す看護を応援してくれますか」
第4弾 「リハビリ充実で退院早期に」渡病院長インタビュー
第6弾 座間の新病院開院で「二つの病院が一つに」
田所部長は、海老名総合病院に入職するまでに、全国各地の病院で、総合診療科のオープニングスタッフだったり、運営に関与してきたりして、ノウハウを蓄積してきた。海老名総合病院には2010年に入職、同年の総合診療科と同病棟の立ち上げにかかわった。
JMAの鄭義弘理事長は、医療の高度化につれて診療科が細分化される一方、複数疾患を持つ高齢者などに適切な医療を提供するためには総合診療科が必要だと、かねてから考えていた。
田所部長は、07年ごろに県内のほかの病院に勤務しながら、週に一日、海老名総合病院に非常勤で来ていた。そこで、鄭理事長から、同病院で総合診療科を始めてみたいとの話を聞く機会があった。その後、鄭理事長に誘われ、同病院で働き始めた。
4月に開院する座間総合病院は、総合診療科が前面に打ち出される。同病院では、外来患者はまず、総合診療科が受け入れ、そこで医療が完結することもあるが、より専門領域の診療科を受診した方がいい場合には、その診療科につなぐことになる。さらに、総合診療科が中心になって病棟の患者を診るなど、役割は一層重要になる。
現在、海老名総合病院で総合診療科を率いている田所部長は、これまでほかの病院で、総合診療科を運営する難しさを肌で感じていた。ある病院では、看護部が総合診療科に対して、「入院する患者さんの看護方針が立てにくい総合診療科って、一体何なのか」などと反発したことから、院内でぎくしゃくすることもあった。 それに比べ海老名総合病院は、病院全体で総合診療科への理解が深く、既存の診療科とのあつれきもなく、スムーズに受け入れられた。座間総合病院のオープニングスタッフには、海老名総合病院のDNAを持った職員が相当数移行するため、田所部長にとっての安心材料となっている。
田所部長は、座間総合病院では同科が中心となって外来患者の対応をしていくだけに、ほかの診療科にスムーズにつなげられるよう、より患者第一主義を心掛ける必要があると強調する。同病院で一緒に働くスタッフに対しては、「患者第一主義は、スタッフがいつも考えていることですが、さまざまな場面で、その判断は本当に患者さんのためになっているかと自問自答し続けてほしいです」と話す。
海老名総合病院と座間総合病院は、共有の電子カルテシステムを導入することが決まった。患者のカルテや検査データをオンラインで共有することが可能になる。海老名総合病院の患者が、座間総合病院に転院することも、その逆もある。
田所部長は、患者に適切な医療を提供するために、病院間のコミュニケーションを密にしていく必要があると考えている。座間総合病院の開院後も、海老名総合病院に自ら訪れ、「顔の見える」交流を続けていく方針だ。
■老年医学実践する医師の教えを求め療養型病院に
田所部長が、座間総合病院で実践しようとしている患者第一主義は、03年から04年まで勤務した鶴巻温泉病院(同県秦野市、一般・療養病床591床)で師事した西村知樹医師(同病院退職後、現在は同県平塚市で「湘南ウェルネスクリニック」を開業)の教えに基づいている。
青年海外協力隊としてアマゾンの奥地で活躍する医師の話に惹かれ、地域の患者を幅広く診る医師を目指していた田所部長は2000年、富山医科薬科大(現在の富山大)を卒業。急性期の立川相互病院(東京都立川市)に研修医として勤務した後に、高齢者医療に興味を持ち始めた。そこで、米国で老年医学を学んできた西村医師のいた鶴巻温泉病院に移った。
医師になりたての田所部長にとって、鶴巻温泉病院での経験は印象に残るものだった。同病院にいた2年間、西村医師の下で日常診療をしながら、老年医学の英語の文献を読みふける毎日だった。
当時を振り返り、田所部長は、こう話す。
「西村先生にはとても厳しく指導していただきました。その教えには、大変影響を受けました。高齢の患者さんはいろいろで、西村先生からは、とにかく患者さんを第一にして、教科書に書いていないこともやりなさいと指導されました。また老年医学で医師は、いろいろな職種とかかわる中で、患者さんにとって最適な答えを導き出す、いわゆるコーディネーターの役割を担うということも教わりました」 ■座間総合病院には「カイゼン」持続できる風土を
田所部長は、座間総合病院では副院長も兼務して、上野美恵子看護部長や竹村華織看護副部長らと、渡潤病院長をサポートしていくことになる。田所部長が、同病院で実現したいことの一つに「カイゼンプロモーションオフィス」(KPO=Kaizen Promotion Office)の開設がある。
KPOは、トヨタ自動車の生産システムが基になっている。米国の病院ランキングで常に、上位に名を連ねる米シアトルのバージニア・メイソン・メディカルセンターが採用したことで有名になった。医師、看護師などの多職種で構成されるカイゼンチームにより、患者を治療する際の「診療の質」の向上に取り組む仕組みだ。田所部長は3年前、バージニア・メイソン・メディカルセンターを視察し、そこでKPOを通じて実践されていたPatient First(患者第一)に感銘を受けた。
海老名総合病院は05年7月に「業務改善推進プロジェクト」を発足させ、08年には同プロジェクトを「業務改善委員会」として、院内組織の一委員会に格上げした。例えば、退院調整の手順を見直し、専従の退院調整看護師2人を配置、医療ソーシャルワーカー(MSW)と共に業務に当たる体制を整えた。また、薬剤師と理学療法士を病棟に配置し、理学療法士が病棟ラウンドに参加することで、多職種がコミュニケーションを円滑にできるようにしたりもした。
また、海老名総合病院は職員一人ひとりが病院経営に貢献しているという意識付けをするためのBSC(バランスト・スコアカード)という経営ツールを09年に試行導入し、ビジョンと戦略を「見える化」して、組織全員に周知徹底するようにした。同病院は、その理念に「皆さまと共に考える医療」を掲げている。患者・家族を含め、職員が一丸となったチーム医療を実現するためには、業務改善とBSCが有効だと判断した。
BSCにより、▽部門間・職員間のコミュニケーションの活性化▽病院ビジョンの浸透▽問題・課題の可視化▽優先順位の明確化―などを実施することで、職員一人ひとりが自ら病院にどのように貢献できるかを考え、行動できる組織になることを目指した。
座間総合病院で田所部長は総合診療科の部長として、ほかの診療科などと連携してチーム医療を推進するコーディネーター役となることが期待される一方、副院長として病院経営を俯瞰する役割も担うことになる。
田所部長は、海老名総合病院での業務改善とBSCの導入で得た知見を存分に発揮できると確信している。だからこそ、「座間総合病院にも、“カイゼン”を持続できる風土を根付かせていきたい」と話す。
■「医療は毎日、マラソンを続けているようなもの」
田所部長は4年前から、マラソンを始めた。総合診療科の同僚医師に、「一緒に駅伝に出ないか」と誘われたのがきっかけだ。4回、フルマラソンに出場し、すべて完走している。
昨年12月には県内で開催された「湘南国際マラソン」に出場して、4時間9分の記録をマークした。一般のマラソンランナーが目指す、サブ4(4時間以内で完走)まで、あと少しだ。田所部長は、高校、大学とハンドボールに打ち込み、東日本インターカレッジに出場するほどの実力と体力の持ち主だ。
そこでマラソンが、医師としての業務のためになるかと聞くと、「マラソンは考えるスポーツで、かつ持久力が必要。やみくもに走ったら、リタイアするのが目に見えているので、計画的なスポーツ。フルマラソンを走り切ると達成感があるが、医療は常に、環境が変わる。ゴールを設定して答えを出しても、新たなゴールが変わるので、医療は際限がない。医療は毎日、マラソンを続けているようなもの」と、しみじみと語った。
田所部長は、このインタビュー記事の取材の最中も外来患者の心配をし続け、取材が終わると同時に現場に戻るなど、患者第一主義を貫いている。4月からは座間総合病院を舞台にした、真の患者第一主義に向けた新たなマラソンがスタートする。
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