座間の新病院、総合診療科を前面に
地域の患者をワンストップで受け入れ
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社会医療法人 ジャパンメディカルアライアンス(JMA) の鄭義弘理事長は、こう話す。
神奈川県の「県央」二次医療圏で、急性期医療を中心に地域医療を担っている 海老名総合病院 (海老名市、469床)を運営するJMAは現在、同市の北側に隣接する座間市に2016年4月、 座間総合病院 (渡潤院長、回復期リハビリテーション病床、療養病床を含む352床)を開院する。
座間総合病院シリーズ
第2弾 「病院辞めていた1年間が看護の幅広げた」
第 3 弾 「病院は目指す看護を応援してくれますか」
第4弾 「リハビリ充実で退院早期に」渡病院長インタビュー
第5弾 座間総合病院「チーム医療で患者第一実現」
第6弾 座間の新病院開院で「二つの病院が一つに」
JMAの発祥の地は、埼玉県。JMAは現在、同県で 東埼玉総合病院 (幸手市、173床)、静岡県で 下田メディカルセンター (下田市、154床)をそれぞれ運営。グループで病院やクリニック、介護施設のほか、在宅療養支援事業や健診センター、保育施設を地域に密着した形で展開している。
新たにスタートする座間総合病院は、特に内科領域では総合診療科が中心となり診療に当たる。高齢化の進展で、患者は複数の疾患を抱えることが少なくない。体調が悪くて、病院を受診しても果たしてどの診療科がいいのか分かりづらくなっている。
さらに、医療が高度になるにつれ診療科が細分化し、患者が適切な診療科にたどり着けなくなるという皮肉な事態も起きている。鄭理事長は、「少しでも早く、患者さんが必要な医療を受けることができるように、総合診療科が窓口になってワンストップの体制で患者さんを受け入れます」と説明する。
しかし、鄭理事長は、総合診療科は外来患者の単なる振り分け役では決してないと強調し、「総合診療科も独自の専門領域であり、そこで完結する医療も相当数あります。幅広い知識と技能が求められます」と付け加える。
■JMAに事務局を置く「海老名内科フォーラム」等の連携のための会が、地域での「顔の見える交流」実現
11年10月末に日米合同委員会が開かれ、キャンプ座間チャペル・ヒルの住宅地区の一部の土地、約5.4ヘクタールを返還することで基本合意した。
キャンプ座間のある座間市の現在の医療提供体制はというと、現存する医療機関の懸命の努力にもかかわらず、市内では内科、外科、小児科の二次救急輪番が組めず、隣接市の救急病院に協力を求めざるを得ない状況が続いている。14年1月から12月までの同市の救急搬送件数は5063件だったが、そのうちの約75.7%を海老名市や厚木市など市外に搬送しているのが実情だ。
そこで、座間市は返還される跡地の一部(約1.5ヘクタール)に新病院を誘致することを決め、13年4月に病院の事業者の公募を開始、専門家委員会で審査を開始した。
公募締め切りまでに複数の事業者から応募があったが、その中で専門家委員会は同年8月、新病院の事業者にJMAを選んだ。同委員会がJMAを選定した理由については、▽隣接市にある既存の海老名総合病院の救急医療での実績▽市が望む300床規模の総合的病院に向けた具体性のある提案―などが挙げられた。
JMAは、座間市の新病院の事業者選定に名乗りを上げるに当たり、座間綾瀬医師会と海老名医師会と協議をした。地域医療には、医師会の協力が不可欠だと考えているからだ。両医師会の理事会では、JMAの考える地域医療の将来像について説明した。
その結果、いずれの医師会からも理解と支援を取り付けることができた。鄭理事長は、JMAが新病院の事業者になることへの理解が得られたのは、30年余りにわたり地域の医療機関のよき理解の下で信頼関係が構築できていたことと、加えて病診連携のためのJMAに事務局を置く「海老名内科フォーラム」や多くの医師会との顔の見える会の実績が背景にあったとみている。
その一つの「海老名内科フォーラム」とは、今年で12年目となる地域の医師50人前後が会する、内科領域の専門に偏ることのない、紹介症例の報告会のようなものだ。例年、2月と7月に開催。鄭理事長は、「内科フォーラムばかりでなく、そのほかのさまざまな研究会を通じて、病院の職員と地域の診療所の先生方との顔の見える交流が可能になっています」と説明する。
■JMAが目指す、県央二次医療圏の25年の医療提供体制の姿
座間市の専門家委員会が、新病院の事業者にJMAを決めた理由に、具体性のある提案を挙げているように、JMAの県央二次医療圏で目指す25年の医療提供体制の姿は明確だ。
政府は、団塊世代すべてが後期高齢者になる25年に向けて、病床機能の分化・連携の推進を打ち出し、今年4月から都道府県は、地域医療構想(ビジョン)策定に向け動きだしている。
県がビジョンを策定する中で、JMAは独自ビジョンを掲げている。
今後、日本は人口減社会になるといわれている。その中で、神奈川県の県央医療圏は、25年に向けて高齢化が進展するとともに、30年以降も人口増が続く見通しだ。大型のショッピングセンター「ららぽーと海老名」が15年10月に開業したり、海老名駅周辺に大型マンションの建設が進んだりするなど、再開発が急ピッチだ。
このような県央医療圏の人口動態動向が予想される中で、同医療圏は圏内で医療提供を完結させることが思うようにいかず、同医療圏の北部に接する相模原医療圏と南部に接する湘南西部医療圏に、合わせて現在、1日当たり160人余りの入院患者が流出している。
これに対し、JMAは強い危機感を感じている。それは、二次医療圏内で医療が完結できないと、地域住民が居住地から離れた場所にまで、通院しなくてはいけないといったデメリットも生じてくるためだ。 これから県は、18年度からの保健医療計画の柱になる地域医療ビジョンの取りまとめを本格化させる。そのビジョンでは、原則二次医療圏に基づき設定される「構想区域」ごとに、25年の医療提供体制の在るべき姿を示すことになる。そこで肝になるのは、果たして将来に向けて二次医療圏内で、5疾病5事業などを完結できるかということだ。
JMAは、県央医療圏の中で、海老名総合病院の高度急性期、急性期を中心とする機能を充実させる方針。すでに、同病院への救急車搬送件数は14年度に6706件に達している。17年4月からは、県の救命救急センターの指定を受けることができるよう準備を進めている。一方、座間総合病院には、一般急性期を中心に回復期、慢性期の機能を集中させ、JMAグループ内の療養病床を移行させる考えだ。
JMAが座間市の新病院の事業者に選定され、来年4月、ついに座間総合病院は開院の運びとなるが、これまでの道筋は決して平たんではなかった。
JMAが返還跡地の新病院の事業者に選定された13年、その当時、世界的な素材市況の高騰と、国内の人手不足で座間総合病院の予定建設費用は膨らむ一方だった。この間、病院の建設自体を断念することが、何度も鄭理事長の頭をよぎった。
増大する建設費用を前に鄭理事長は、建設計画の見直しを指示。無駄を省き、コスト削減に努めた。しかし、患者第一の考えは譲らなかった。その一つが、病棟の配置だ。例えば、リハビリテーション施設と回復期病棟を同じフロアに設置したことなどはその一つ。それが患者や職員にとってより効率的に早期退院につなげられるという、鄭理事長の考えからだった。
■医療者には自己実現する機会を提供
JMAでは職員に長く勤めてもらうために、キャリアパスについての独特な取り組みを進めようと考えている。
特に、医療関係者のキャリアパスにおいては、JMAグループの高度急性期医療から慢性期医療までをカバーする病院のほか、訪問診療や介護の施設などのグループを活用し、若いうちからさまざまな医療にかかわる現場を経験するよう促している。鄭理事長は、こう話す。「医療者には、いろいろ経験してほしいのです。医療者としてこのようなキャリアパスを通じて、人間の深みのようなもの、多様な価値観を共有しようという姿勢が出てくると思います」と。
さらに鄭理事長は座間総合病院で働くことを考えている医師に対し、このようなメッセージを送る。
「幅広く急性期の患者さんを受け入れることと同時に、急性期後の患者さんのサポートの重要性を再認識していただきたいです。要するに、病気が治った後に、患者さんを待ち受けているのは家庭であり、地域社会であり、職場なのです。これからの医療には、帰ってゆくその先の満足度も考慮したサポートが必要だという視点を持ってほしいですね」
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