厚生労働省は30日、社会福祉法人制度の改正などを検討する社会保障審議会福祉部会(部会長=田中滋・慶大名誉教授)に、財務規律の確立に向けた、新たな提案をした。提案は、事業継続に必要な財産と、それ以外の「余裕財産」を明確に区分した上で、「余裕財産」については、すべて福祉サービスの充実や人材教育、地域での公益的な活動に再投資することを、事実上、義務付ける内容となっている。この日の部会では、ほぼ全委員が厚労省の提案を評価。今後、同部会は事業継続に必要な財産と「余裕財産」の“仕分け”の議論に入る。【ただ正芳】
「社会福祉法人の役割、ますます重く」-規制改革会議・岡議長インタビュー(下)
【解説】再燃・社福の内部留保
社会福祉法人の財務規律については、役員報酬の基準などが定められていない点が課題とされている。また、特別養護老人ホーム(特養)を中心に、過大な内部留保を保有していると指摘する有識者も多く、今年6月に閣議決定された規制改革実施計画にも、内部留保の位置づけを明確にし、福祉サービスへの再投資や社会貢献での活用を促すことが盛り込まれた。 内部留保の額については、特養1施設あたり約3億円とする分析もあれば、6600万円程度と見積もる分析もあり、実際にどの程度の額があるかは、完全には把握されていない。また内部留保といわれる金額の中には、現預金として存在しないものや、建物の建て替えなど運営の継続に不可欠な資金も含まれるため、そのまま再投資が可能な金額ではないとする指摘もある。さらに、社会福祉法人における内部留保の定義が明確になっていない点も問題視されていた。 そこで厚労省は、財務規律を確立するための考え方として、社会福祉法人が持つ財産を事業継続に必要な財産と、それ以外に活用可能な「余裕財産」に明確に区分することを提案。その上で、「余裕財産」については、福祉サービスの質の向上や人材への投資、地域のニーズを踏まえた「地域公益活動」への計画的な再投下を促す仕組みの構築が必要とした。 「余裕財産」については、貸借対照表の貸方に計上されている内部資金(次期繰越活動収支差額やその他の積立金などを合算したもの)から、事業の継続に必要な財産(控除対象財産)を差し引いたものが該当するとしている。ただ、「控除対象財産」や、「余裕財産」を活用して実施すべき「地域公益活動」の内容については今後、同部会で検討する予定だ。 そのほか、この日は▽役員報酬の支給基準の設定▽調達などにおける親族などの特定の関係者への利益供与の制限▽一定規模以上の法人は、外部監査によって支出管理をチェックする体制を整える―ことも提案された。 厚労省の提案を委員らはおおむね前向きに評価。「(調達における特定関係者への利益供与を制限するため)随意契約を基本的に認めない方針を盛り込むべき」(対馬徳昭委員・つしま医療福祉グループ代表)や、「財務諸表をチェックする、財務の第三者評価の仕組みを作るべき」(藤井賢一郎委員・上智大准教授)といった意見も出た。議論の中で、内容などについて説明を求められた厚労省社会・援護局福祉基盤課の岩井勝弘課長は、「(法人の性質上)社会福祉法人には、基本的には余裕財産はない。余裕財産がある場合は、すべて再投下して地域住民に還元する仕組みを提案した」と述べた。
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