【京大大学院教授(健康情報学分野) 中山健夫】
4回にわたって医療におけるビッグデータについてお話ししてきました。今回は、ビッグデータが健康・医療の分野で役立っていくための一大課題、「国民共通番号」を取り上げ、最終回としたいと思います。
「携帯電話を長く使うと、電磁波の影響で脳腫瘍になる」という話、聞いたことのある方もいらっしゃるでしょう。この問題をめぐっては、大規模な国際的疫学研究“INTERPHONE Study”が実施されました。脳腫瘍と診断された患者さん(「症例」)と、脳腫瘍ではない方(「対照」)が集められ、これまで携帯電話をどれくらい使っていたか、聞き取り調査を行う「症例対照研究」です。人間の健康リスクを明らかにするには、こうした人間を対象とした地道な疫学研究が不可欠です。
さてその結果は、というと、2010年に「携帯電話の通話時間が長くても、脳腫瘍が増えるという明らかな関係は見られない」という論文が国際疫学会誌に発表されました。ただ、実は悩ましい(?)ことに、累積時間が1640時間(毎日27分で10年間)を超えると、携帯電話を使ったことのない人より脳腫瘍が約1.4倍増えるかもしれない、という少々気になる結果も出ているのです。これについて研究グループは、自らのデータの信頼性にも注意を呼び掛けた上で、「ヘビーユーザーはがんになる」という短絡的な印象を与えないように慎重なまとめ方をしています。
“INTERPHONE Study”は「携帯電話と脳腫瘍」という微妙で重大な関係の解明に挑戦し、大きな成果を上げた大規模な疫学研究です。症例と対照合わせて5000人以上から得られたデータは、「ビッグデータ」と言えないこともありません。次に、これと比べながら、もう一つの疫学研究をご紹介しましょう。
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