【岡山大大学院医歯薬学総合研究科 救急薬学分野 教授 名倉弘哲】
2011年3月に発生した東日本大震災によって多くの薬剤師が被災地の医療支援に訪れました。その中で、平時とは異なる薬剤師の任務・使命に気付いた方が多かったのではないでしょうか。
被災された方の中には、身の回りのものすべてを失い、避難所での生活を強いられた方々がおられました。やがて、慢性疾患を持った患者さんは、それまで普通に入手できていた薬を求めて、仮設診療所や救護所に詰め掛けました。通常であれば、処方せんによる保険調剤でこれまで通りの薬が渡せるところですが、その当時は医療物資や医薬品が不足し、さらには津波でカルテやお薬手帳などが失われたことにより、それまで服用していた薬の名前すら分からない患者さんが多数おられました。さらに、最悪だったのは、薬を飲まず(飲めず)、体調を崩してから受診する状況を強いられていたこともありました。
支援の現場では、医師と薬剤師が組んで投薬する場面も多く見られ、薬剤師の臨床能力が試されたと痛感した方もおられたはずです。そして、薬剤師が患者さんのバイタルサインから病態をどのように判断して投薬するのか、本当にその薬を渡していいのか、限られた医療資源と極限状態の中で、必死に考えたことでしょう。
そして、11年の初夏、被災地で同じ境遇を経験した仲間で集まり、できるだけ多くの薬剤師が高い意識の下、平時でも有事発生の際でも、患者さんの状態を把握して、その変化に対応できる薬剤師教育を目指した研究会を立ち上げようと動き始めました。
次回の記事配信は、6月12日15:00を予定しています
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