【日本医療コーディネーター協会理事 水木麻衣子】
最近、地域包括ケアとして、多職種連携の取り組みが盛んであるが、懸念もある。実は「最大量のサービス」になりがちなのである。「自分が訪問することが一番のサービスだ」と思って状態が安定している患者の血圧を測りに行く医師、末期のすい臓がん患者に虫歯の治療をしようとする歯科医師、通院できる患者に往診を提供しようとするケアマネジャー、退院前に2時間置きの体位交換を家族に覚えさせようとする病院看護師―。それぞれが「善かれ」と思って行った介入だろう。誰も悪くはないが、患者が本当に欲しているものだったのだろうか?
医療コーディネーターは、医療対話と意思決定支援の実践者である。患者に夢と希望を語ってもらい、医師に妥当な決定を促し、どうしたら患者の希望が実現するかを探っていく。それは、患者の“わがまま”に付き合い、あれもこれもと最大量のサービスを提供することではない。それどころか、サービスの量自体は標準より少なくなるケースすらある。患者の希望に沿った医療を提供することが、結果的に「医療の適正配分」の実現につながっていくのだ。わたしが自分の仕事に社会的意義を感じている根拠は、ここにある。
医療の適正配分とコスト削減は喫緊の課題であるが、長い間、こう着状態が続いている。その間も医療財政は厳しさを増しており、いずれ訪れる財政破たんだけが日々、確実になっていくようである。それは、同様の患者対応をしても、医療者の給料が減る日が来るということだ。さらに輪を掛けて、超高齢社会は複雑な疾患と背景を持つ患者を増やす。しかも、現状では1人の高齢者を3人の現役世代が支えているが、2050年にはほぼ1人で支える肩車型になるといわれている。そんな社会においては、支える側も支えられる側も負担が大きく、国民全体の健康リスクが高まる。
こう着が長過ぎた。もはや「喫緊の問題」として語るべき時期を過ぎた、と考えるわたしは極端過ぎるだろうか。
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