【東京慈恵会医科大学日本語教育研究室教授 野呂幾久子】
最終回の第4回は、聴くことを中心に、医療におけるコミュニケーションの重要性について考えたいと思います。
コミュニケーションにおいて聴くという行為は非常に重要です。しかし、高等学校までに受けた国語の授業を思い返した時に、小説や評論を「読む」、感想文や意見文を「書く」、あるいは若い世代の方であればスピーチやディスカッションなどの「話す」授業は受けても、「聴く」授業はほとんど受けた記憶がないという方は多いのではないでしょうか。これは、長い間聴くことが、相手の言葉を受動的に受け取るだけの簡単な行為であり、授業で教えなくても身に付くと考えられてきたためです。しかし、キャッチャーがいなければキャッチボールにならないように、聴くという行為がなければコミュニケーションは成り立ちません。
これは医療においても同じだと思います。患者は医療者、特に医師に、「話を聴いてもらえない」という不満を持つといわれています。米国で医師と患者の外来診療場面を分析したMarvelらによると、患者が最後まで主訴を話すことができた診療は全体の28%にすぎず、患者の話は平均23.1秒で医師からの質問やコメントなどによって遮られていました1)。つらい思いや不安な思いを抱えて受診しても、話しだした途端に話の腰を折られてしまうと、話す気持ちがそがれますし、聴いてもらえなかったという不満につながりやすくなります。多忙な医療現場の状況で常に患者の話を聴くことは難しいかもしれませんが、診療の始めだけでも意識して患者の話を遮らずに聴くことで、「受け止めてもらえた」との印象につながるかと思います。
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