
■入力時間を75%削減
kanata(東京都中央区)は、診察中の会話を10秒程度でカルテ形式に要約するクラウドツール「kanaVo(カナボー)」を提供する。カルテの入力時間を短縮し、医師の働き方改革や患者満足度向上などを図る。
診察中の会話をカルテ形式に要約する。ユーザーへのアンケートによると、導入前は1日当たり152分を要していたカルテ入力時間が、75%削減の38分に。カルテの内容も、「kanaVo」導入前の3倍程度に充実している。カルテ入力の時間から解放されることで、医師が患者に向き合う時間を増やし、患者満足度の向上にもつなげる。
「kanaVo」は「医師の働き方改革」「カルテの充実」「患者満足度の向上」という3つの効果を狙うDXツールとなっている。ユーザー数は2024年12月現在で250施設超。24年からは病院にも普及し始めていて、外来だけではなく問診や病状説明などにも活用のシーンが広がっている。
ユーザーからの意見を基に、患者への栄養指導・生活指導、看護師のラウンド、病状説明(IC)など、カルテ形式以外のシーンへの対応も進んだ。さらには日時やコメントから、診察ログを職員ID、患者ID、タグ、発話内容などで容易に検索できる一覧画面を実装した。これにより、医師以外も含めた院内の誰もがいつでも患者とのコミュニケーションを振り返られるようになり、チーム医療の実現にも寄与できるようになった。
こういった効果を支えているのは、医療コミュニケーションに特化した音声認識とAIだ。医療分野に限定した技術による自社開発で、静かな環境以外でも高精度のアウトプットを実現した。
マイクの接続、ブラウザの設定、インターネット接続などの問題が生じた場合に備え、病院では1カ月、クリニックでは10日間の導入前の無料トライアル期間を用意している。この際に「kanaVo」を顧客が実際に操作するとともに、不明点についてはサポートチームがメールとオンラインで説明する。このサポートで、導入時にストレスなく操作できるようにする。
導入後の要望もサポートチームが窓口となり、問い合わせに伴うストレス軽減を図る。サポートチームが受ける要望は、「要約結果のカスタマイズ、特殊な単語の登録などの辞書的なもの」「機能の追加・改修」の2つに大別されるという。
要約結果のカスタマイズ、特殊な単語の辞書登録などは、カスタマイズチームが対応する。ほとんどの要望については、数日で対応できるという。機能の追加・改修については、サポートチームと開発チームによる開発会議にかけられ、開発の優先順位が付けられる。優先順位が高い順に開発され、実装間近になると、サポートチームを通じてユーザーに新機能が案内される。
こういった平時のサポート以上に求められるのは、緊急時の対応だ。クラウドサービスである「kanaVo」は、サーバーのダウン、回線やルーターの不具合などの影響を受けることも想定される。このような状況に備えて、サーバーに接続できない時に、音声録音だけできる機能も用意している。サーバー接続時に自動的に録音ファイルがアップされ、ユーザーの損害は最小限に抑えられる。
■院外でも情報共有
医療法人社団KNI北原国際病院(東京都八王子市)は「kanaVo」を利用している。アプリや専用機器に依存せず、ブラウザ上で簡単に使うことができるという。特殊なマイクは不要で、ノートPCやタブレットだけでも高精度で認識され、自然な姿勢で利用できるという。
院内での利用については、主に診察前問診で使われている。AIが要約した結果は、すぐ転記して活用でき、患者と医療従事者とのコミュニケーションの記録に重宝されている。今後は、患者と看護師の病棟での会話、患者と医師のインフォームドコンセント、患者・家族と相談員のやりとりなどにも使用するという。
さらに院外では訪問診療や訪問看護での記録として「kanaVo」を活用している。同じ情報を離れた場所で同時に閲覧できるので、訪問先で入力しているデータを、院内にいるスタッフが確認できる点が有効だという。情報の時差もなくなり、業務効率化につながっている。
インフォームドコンセントでの利用には、特に有益との声は他院からも挙がっている。ある病院では、入院患者の家族への電話の病状説明に「kanaVo」を利用。以前は電話での会話をICレコーダーで録音し、それを医療秘書が書き起こしていた。「kanaVo」導入後、作業時間は半減したとの評価もある。
代表取締役である滝内冬夫氏が「kanaVo」を開発したきっかけは、長男の1年2カ月にわたる入院だったという。印象的だったのは、看護師が長男の看護記録を書くために手袋にメモしていたことである。このときに文章業務の大変さを実感した。
医療従事者の業務の多くを記録業務が占め、記録のために残業をしているという話を滝内氏はよく聞いたという。そこで記録業務を削減できれば、患者と向き合う時間を作れ、医療従事者に恩返しができると考え起業。22年に「kanaVo」のサービスを開始した。社名と製品名は長男・奏向(かなた)さんから命名した。
24年からクリニック以外に病院でも利用可能となった。滝内氏は「これからも全国の医療者のために恩返しをしていく」と話す。
▽kanata株式会社「kanaVo」
https://www.kanatato.co.jp/