【北海道介護福祉道場 あかい花代表 菊地雅洋】
2024年度の介護報酬改定率は全体でプラス1.59%とされているが、事業収入となる本体部分の改定率は、処遇改善分のプラス0.98%を除いたプラス0.61%でしかない。そのような中で、介護事業経営実態調査の22年度決算で収支差率が初めてマイナスとなった施設サービスは、居宅サービスと比較すると高い改定率となっており、特別養護老人ホーム(特養)の改定率は2.80%とされている。しかし、そうであっても物価高による運営経費の高騰に対応した改定率の引き上げとはなっていない。
そのため、収支差率をプラスにするためにはベッドの稼働率を高めた上で、上位区分の加算をくまなく算定するとともに、より一層の経費削減が求められている。しかし、経費削減といっても、従前から対策を取ってきた施設はこれ以上どの経費を削減できるのかと頭を悩ませていたことだろう。そのような特養の経営者にとって朗報ともいえる宿直者配置基準の緩和が厚労省のQ&Aで示された。
3月15日付の24年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1)の107ページに、特養の宿直者配置義務をなくすという画期的な解釈が掲載された。
【特別養護老人ホーム】
〇宿直員の配置について
問178:特別養護老人ホームにおいて、夜勤職員とは別に、宿直者を配置する必要があるか。
(答)社会福祉施設等において面積にかかわらずスプリンクラー設備の設置が義務付けられるなど、消防用設備等の基準が強化されてきたことや、他の施設系サービスにおいて宿直員の配置が求められていないこと、人手不足により施設における職員確保が困難である状況等を踏まえ、夜勤職員基準を満たす夜勤職員を配置している場合には、夜勤職員と別に宿直者を配置しなくても差し支えない。ただし、入所者等の安全のため、宿直員の配置の有無にかかわらず、夜間を想定した消防訓練等を通じて、各施設において必要な火災予防体制を整えるよう改めてお願いする。
※「平成27年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1)(平成27年4月1日)の問137及び問138は、削除する。
介護保険施設の中で特養には唯一、夜勤者配置に加えて宿直者の配置義務が課せられていた。これは措置制度時代に、東京都東村山市の特養の火災事故を受けて、老人福祉法の関連通知「社会福祉施設における防火安全対策の強化について」により夜勤者とは別に、夜間帯に宿直者の配置が必要とされたことを引き継いで、介護保険制度施行以降も特養にだけ課せられ続けている義務である。
この義務は15年度の基準改正で一部見直しが行われているが、その内容とは「夜勤職員が加配されている時間帯については、宿直員の配置が不要となる」というものでしかなく、夜勤帯全時間帯を通じて配置基準より夜勤者を加配できていない特養は宿直者を配置し続けなければならなかった。介護老人保健施設(老健)や介護医療院にこのような基準は存在しないことを踏まえると、それは不公平であると考える特養の関係者は少なくなかった。
しかし、その基準の見直しは社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の介護保険部会や介護給付費分科会でも議論の俎上に載がることはなかった。それが突然3月15日付のQ&Aによって廃止の方針が示されたため、驚いた関係者がほとんどだろう。
■宿直者配置、早めに廃止を
前述したように、特養の宿直者配置義務は夜間の火災事故などの緊急時に備えた措置なので、平時には宿直者の役割と仕事がほとんどない場合が多く、宿直者を配置しているといっても夜間に見回りを数回して、それ以外は電話番をするだけの役割しかない。しかも見回りといっても
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