【元松阪市民病院 総合企画室 世古口務】
今回から「公立病院は、なぜ赤字か」というコーナーを担当させていただきます。公立病院だけでなく、その他の組織母体の病院でも経営改善のヒントになるかと思いますので参考にしてください。その前に簡単に自己紹介をさせていただきます。
1972年、三重県立大学医学部(現、三重大学医学部)を卒業し、三重大学医学部附属病院第1外科(現、肝胆膵、移植外科)に入局の後、1986年4月より市立伊勢総合病院(419床)外科に勤務し、外科医長、副院長、院長(49歳で就任)、伊勢市病院事業管理者兼市立伊勢総合病院院長を経験し、2008年3月に退職(60歳)、同年4月より松阪市民病院、総合企画室に勤務していました。
公立病院以外で勤務した経験はありませんが、なぜ公立病院が他の組織母体の病院に比較して経営状況が不良なのか、その理由を考えてみました。合わせてそれに対する改善方法について、松阪市民病院での経験に基づき述べてみたいと思います。
これは、毎年全国公私病院連盟が公表しています、全国の公立病院、公的病院(日赤病院、済生会病院、厚生連病院、等)、民間病院の黒字、赤字の状況を経年的に見てきたグラフであります=グラフ1=。黒字の病院は、30%下回ることが多く、約70%の病院が赤字であることを表しています。今回の統計では、公立病院においては、国からの繰入金、補助金は除外して計算されています。
これを組織形態別に見てみます。
公立病院における繰入金(税金)と新型コロナ感染患者のための病床確保に対する国からの交付金(「病床確保料」)を排除するため19年での数値で見てみますと、黒字の病院は公立病院ではわずかに11.1%に過ぎません=グラフ2=。一方、日赤病院・済生会病院・厚生病院などの公的病院では黒字病院は38.4%、医療法人の病院では黒字病院は49.1%と、公立病院での経営状況の悪さが極めて高い数値になっています。
組織形態別に見て、医師はじめコメディカル職員の医療技術による差はなく、さらに同じ診療報酬制度、DPCで手術、検査、治療を行っていても、なぜこれほどの差がつくのかをその理由について検討したいと思います。
この割合は新型コロナ感染が影響を及ぼす前の結果でありますから、新型コロナ感染後はどの病院も病院経営状況はさらに厳しくなってきています。
次回は、「職員の危機意識の欠如」として新型コロナ感染患者の病床確保料の問題も含めて説明いたします。
ちょっと気分転換、Dr世古口のこぼれ話(1)
「ウサギとカメ」のイソップ寓話から見た病院経営
イソップ寓話は、今から2500年前、紀元前6世紀の古代ギリシャのアイソーパス(別の読み、イソップ)が作ったとされる、擬人化した動物たちが登場して、日常生活や人々の精神性を描いた教訓・風刺めいた内容が多いのが特徴です。日本では1593年に紹介されたのが始まりと言われています。子どもに教訓を学んでもらうだけでなく大人も改めて読んでみると、現代でも十分に通用する内容も多いように思います。今回はイソップ寓話「ウサギとカメ」のお話を思い出してください。どうしてウサギさんはカメさんに負けてしまったのでしょうか。現代の病院経営の観点に立って考えてみましょう。
■解釈1:コツコツ努力したカメさん
ウサギさんは、日頃からカメさんの実力がどれほどか知っていたので、ウサギさんはカメさんに負けるわけがないと思い、油断し、競争の途中で昼寝をしてしまいました。一方、カメさんはコツコツ歩みを進めて最終的に昼寝のまま起きてこなかったウサギさんを追い抜いて勝負に勝ちました。
これは病院経営に置き換えてみますと、毎日、コツコツ努力し、継続させていくことが、病院経営改善に取り組む際には重要であることを意味していると思います。
■解釈2:ビジョンが明確であったカメさん
ウサギさんはカメさんの動きを見ていて、のろのろしかやってこないので、つい油断し昼寝をしてしまいました。一方、カメさんは普段の力から見て最初からウサギさんとの勝負で勝てるわけがないことは十分に分かっていました。ただ、カメさんが考えていたことは、ウサギさんに勝つことではなく、ゴールに到達するという明確な目標を掲げていました。途中でウサギさんが昼寝をしていることに気づきましたが、カメさんの目標はゴールに到達することであり、自分も一緒になって一休みするのでなく、ゴールを目指し一歩一歩前進していき、最終的にウサギさんより先にゴールに到達しました。
病院経営に当てはめてみますと、目先のこと、近隣の病院ことだけを意識するのでなく、「医療の質」を向上させるという明確なビジョンを持ち、これに向けて取り組むことが重要です。そうすることで、いつのまにか世間から注目される立場になることも可能であります。
■解釈3:控え目であるが、なかなかの策略家であったカメさん
カメさんは、自分のはるか前方にいるウサギさんの姿を見て、この勝負には勝てるわけがないことを改めて認識していました。ところが途中でウサギさんが一休みし昼寝をしている姿を横に見ました。ウサギさんと普段から親しい間柄で、競争する前にウサギさんから「途中で昼寝をするかもしれないから、その場合はお願いだから起こして!」と謙虚な姿勢で頼まれていれば起こしたと思います。カメさんとウサギさんは普段からそのような親しい関係になかったのであえて、余分なことをしなかったのでしょう(そこまで親しい関係ではなかった!)。そして、ウサギさんの昼寝をしている間にゴールに到達したのです。さぞかしウサギさんは、日頃の関係の重要性を反省し、悔しい思いをした事と思います。カメさんは策略家かも知れません。
病院経営に置き換えてみますと、日頃から病院間で親密な関係を構築しておくことが重要と思います。規模の大きい病院だから、といって日頃から中小の病院を相手にもしていない病院も時々あります。「謙虚にして驕らず」が基本になることは病院経営でも同じです。
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次回配信は4月21日5:00を予定しています
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