【千葉⼤学医学部附属病院 副病院⻑、病院経営管理学研究センター⻑、ちば医経塾塾⻑ 井上貴裕】
連載第167回では、2019年度と20年度の急性期病院の患者数を比較し、全国では退院患者数が13%減少したが、地域差があり鹿児島県は6%にとどまるのに対して、東京は18%と大幅に減少したことを指摘した。病床規模や機能、そして地域にもよるが、新型コロナウイルス感染症の影響を最も強く受けたのが20年度であり、特に緊急事態宣言が初めて発せられた第1波の第1四半期は予定手術の大幅な制限などにより業績が悪化した。我々が気になるのはその後の動向であり、「医療費の動向」が中央社会保険医療協議会において開示されたことから、本稿では21年度の状況について整理し、今後患者が戻ってくるかどうか、病院経営者としてこの荒波にどう立ち向かうことが望ましいか私見を交えて言及する。
グラフ1は、国民医療費の推移を見たものであり、診療報酬のマイナス改定などにより微減の年もあるが、増加傾向にあり、国民所得に対する比率は11%を超えるまでに到達している。 (残り2365字 / 全3407字) 次回配信は12月12日5:00を予定しています
医療費が増加することは医療機関の収入が増加することをも意味するが、国民所得が伸び悩む中で医療費の比率が上昇すれば、それを抑えるためのマイナス改定につながる可能性もある。その後、20年度はコロナ禍で概算医療費は減少したが、21年度はその反動なのか一転して増加している=資料1=。
ただし、入院医療費はコロナ前に該当する19年度よりも減少しているのに対して、外来(入院外)が増加=資料2=。入院収入がおよそ7割程度を占める病院の財務状況は厳しさを増していることが予想される。本連載でも取り上げてきたが、入院は医薬品材料費比率が低いのに対して、外来は高単価の病院ほど医薬品費比率が高く収益性が悪い傾向がある。急性期病院、特に高度急性期病院では増収だけれど、それ以上に費用がかさみ増収・減益というトレンドが続いてきたが、その傾向が21年度も続いたことが予想される。
また、外来患者数は21年度には戻ったのに対して、入院患者は減少しており、病床稼働率が低調な病院が多いものと予想される。もちろんコロナ病床を確保していることも関係しているわけだが、新入院患者が確保できないという病院が多数を占めるのではないだろうか。とはいえ、入院患者数は減少したものの診療単価が上昇した病院が多く、医療費の動向でも同様の傾向が確認できる=資料3=。
ただ、都道府県によって動向が異なる点は注目される。
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