【千葉大学医学部附属病院 副病院長、病院経営管理学研究センター長、ちば医経塾塾長 井上貴裕】
3度目の発出となる緊急事態宣言が5月末まで延長され、対象地域も拡大された。新型コロナウイルスによって医療提供体制が逼迫していることなどを受けたものだ。特に大阪では、重症病床の使用率が100%を超え、入院が必要な患者も自宅待機等を余儀なくされる事態に陥っている。コロナ病床を増やすべきであり、病床確保が進まないことについて批判の声が多いのも事実だ。本稿では、日本での病床確保が容易ではない理由についてデータを用いて実態に迫り、いずれ議論すべき医療のグランドデザインへ目を向けたい。
グラフ1は人口1,000人当たりの急性期病床数であり、OECD諸国で日本は圧倒的に充実していることが明らかだ。だとすれば、「もっと病床を増やせないか」という声が上がることも不思議ではない。
ただ、国内に目を向ければ病院数は減少の一途をたどっており=グラフ2=、ここ20年で966病院、約1割が減ったことになる=表=。病床規模別で見ると100床以上がマイナス23%と著しく減少しており、診療所に転換したものと予想される。次いで200-299床も減少しているが、これは診療報酬改定等の影響により200床未満に転換した病院が一定程度存在することを意味する。一方で大病院の減少幅は少なめで、これらの病院がコロナ患者の受け入れに一定の貢献をしているのも事実である。
グラフ1 ※クリックで拡大(グラフは以下同様)
グラフ2
表
ただ、病床があっても、コロナ病床を増やすことは容易ではないという現実がある。まず1つはメディアなどでも盛んに取り上げられている看護師等のマンパワー不足にある。平時の医療でも不足感がある中で、コロナ対応が加われば現場はてんてこ舞いである。もう1つが、コロナ患者のゾーニングが可能かどうか、これは構造的な問題も関係する。「病床を確保せよ」という国や都道府県の立場は理解できるし、病院としても地域を支えるために最大限の協力は惜しまずやってきた。特に今のように、各種補助金等が用意されていることにより、コロナ病床を増やそうと頑張ってきた病院は多い。ただ、現実に目を向けると難しい点が多々ある。
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次回配信は5月24日5:00を予定しています
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