【千葉大学医学部附属病院 副病院長、病院経営管理学研究センター長、ちば医経塾塾長 井上貴裕】
急性期病院にとって手術は極めて重要な機能だ。急性期と言い得るためには、入院診療単価の高いことが前提であり、そのためには手術件数増と在院日数短縮が鍵を握ると、本連載でも繰り返し述べてきた。
ただ、確実に外科医離れが進んでおり、外科への入局者は著しく減少しているのが昨今の状況だ。地域によって外科医は絶滅危惧種となってしまうかもしれない。実際に、診療科別の医師数を見ると、外科医の減少は著しいことが分かる=グラフ1=。
内科も減少しているので、これは臓器別診療科に分かれたこともある程度影響しているだろうが、2000年から18年にかけて外科は42%減少している。臓器別の状況を見ても、やはり外科離れが進んでいるのは事実だ=グラフ2・3=。一方で、精神科や整形外科などは増加傾向にあり、これは千葉大学病院の入局者の状況とも一致する結果のため、うなずける。
グラフ3
なお、男女別で見ると外科系は女性からは人気がない一方で、皮膚科、眼科などの診療科では女性医師が多いことが注目される=グラフ4=。現実に目を向ければ、女性医師数は増加しており、このままでいくと、外科を希望する医師は減少の一途をたどる可能性もある=グラフ5=。
では、なぜ外科医離れが進んでいるのだろうか。それは、勤務時間が長く、緊急手術も多く、術後管理、さらにはフォローアップの外来など、負担の大きさが影響しているのだろう。24年に向けて医師の働き方改革を推進する必要があるが、これは義務と受け止めるよりも、前向きに捉えるべきことで、特に外科系医師の負担軽減をいかに図るかは、今後の我が国の医療にとっても、個々の病院にとっても重要課題であることは間違いがない。コロナ禍を理由に、この取り組みを遅延させるべきではない。
外科医は皆、手術が好きで「自分の腕で患者を治癒させたい」という熱意を持っており、私はいかに気持ちよく手術ができる環境を整えるかが、病院経営にとって重要であると考えている。しかし、外来も救急も受け、術後管理もがん患者の化学療法も担当するとなると、負担は大きい。いかに外科入局者が減少しようとも、自院で外科医の確保は必須であり、それが急性期らしく生きられるかどうかの生命線である。
外科医を集めるためには、手術ロボットを購入するなど「道具を与えればよい」と考える病院経営者もいるかもしれない。ただ、ロボットはどの病院でもお金さえ払えば購入でき、本質的な差別化にはなり得ない。大切なことは、病院を挙げての体制整備であり、それができる施設こそが、手術センターとして残っていくのではないだろうか。もちろん、外科医を増やすことは容易ではないが、外科医が手術等への輝ける時間を増やすことは取り組みにより可能だろう。
本稿では、働き方改革を推進し、外科医離れを防ぐための提案を行う。
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次回配信は3月22日5:00を予定しています
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