【国際医療福祉大学大学院 医療福祉経営専攻 教授 石山麗子】
2021年度介護報酬改定の単位が公表されて約10日が経過した。既に4月以降に得られる収入のシミュレーションを行った法人も多いだろう。居宅介護支援の単位は、事業所の経営という観点から見れば、想定以上に満足のいくものであろう。とはいえ、現時点で公表されているのは報酬の告示のみ。実際に算定可能な範囲を判断するには、今後発出される解釈通知やQ&Aの内容に左右される。そこで今回は、居宅介護支援の特定事業所加算のうち、これまでとは少し異質の加算と言える「特定事業所加算(A)」(以下、特定(A)とする)について、その目的を解説し、算定要件を予想する。
まず特定(A)新設の背景について考察してみよう。この加算は、一見してこれまで厚生労働省が示してきた特定事業所加算の方向性とは異なっている。特定事業所加算といえば、これを算定する事業所の規模は全国平均よりも上、というイメージである。つまり、(主任)介護支援専門員の数を確保することが前提にあり、人件費率の高い居宅介護支援において、最も経営に影響する要件を満たす必要がある。現行の特定事業所加算は、最低でも主任介護支援専門員を含み、3人以上が必要である。しかし、新設される特定(A)では、主任介護支援専門員、介護支援専門員、非常勤の介護支援専門員、それぞれ1名から算定可能となる。まだ示されていないが、ポイントの1つは非常勤の比率である。
19年度、全国の居宅介護支援事業所1事業所当たりの介護支援専門員数は、平均2.7人である1)。特定(A)の人員配置は、この平均値に近い。平均的な規模の事業所であれば、特定事業所加算は手の届くものとなりそうだ。しかし、財政状況等の背景を考慮すれば、介護保険財政は厳しい状況にある。全国の多くの居宅介護支援事業所が特定事業所加算を算定するようになれば、財政的負担は大きくなる。なぜこのような改定を行ったのか、以下にその理由を推測する。
(1)介護事業経営実態調査における居宅介護支援の収支差率はマイナス幅が拡大したためその改善を狙った。
(2)居宅介護支援事業所の1事業所当たりの員数は、18年度の3.5人から、19年度は2.7人へと減少した1)。そこで、より実態の員数に合わせて調整した。
(3)ケアマネジメントの質への指摘を受けて久しく、さまざまな方策を取ってきたが、いまだ指摘は絶えない。そのために特定事業所加算の算定対象となる事業所を拡大し、算定要件を満たす活動を通じたケアマネジメントの質の向上を狙った。
これまで厚生労働省が掲げてきた特定事業所加算の方向性は、事業所に複数の(主任)介護支援専門員を配置し、規模を拡大すると同時に、複数の要件を満たすことで質の高い「組織」を作り、地域をリードしていく事業所を増やしていくことだ。その方針は今後も変わらない。これを踏まえつつ、特定(A)についてさらに考えていく。
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