【千葉大学医学部附属病院 副病院長、病院経営管理学研究センター長、ちば医経塾塾長 井上貴裕】
新型コロナウイルスの第3波で、重症者の人数が過去最多を更新し、死亡者も増加している。コロナ病床の利用率がかなり高まっている地域もあり、医療提供体制はいよいよ逼迫している。旭川市では過去最大規模のクラスターが発生し、自衛隊の医療チームが送り込まれ活動を開始している。大阪にも看護官が派遣された。これ以上患者数が増えていけば、通常の医療提供が行えなくなる危険性をはらんでいる。
グラフ1に示すように、第1波では緊急手術はほぼ前年度並みに実施されたが、緊急事態宣言の時期でもあった5月は、定例手術や検査目的の内視鏡等が制限された。緊急手術は生命に直結するため、それを止めなかったことは医療機関の努力の結晶とも言え、第3波の今も急性期病院はその心構えではいるものの、地域によっては緊急対応に支障を来すかもしれない。
私の関連する各病院データを見ても、約8割の病院が第1四半期の手術・全身麻酔件数が対前年比で低水準にあった。一方でこの時期に、大幅に手術を増やした病院も中には存在する。地域や機能の差もあるが、これは安全管理体制も含めた病院の取り組みの成果であり、第3波の今は見習うべきお手本と言えるだろう。もちろん、眼科、整形外科、形成外科、耳鼻咽喉科など、全国で受診が減少した診療科のウエートが大きければ、その影響は色濃く出るだろう。ただ、コロナ禍で件数を激減させた病院が多い中で、これらの診療科であってもむしろ増加したケースも存在する。
不急の予定手術の延期は患者のQOLに影響を及ぼすであろうし、中長期的な生命予後にも影響を及ぼすかもしれない。延期された手術を取り戻そうと手術室、カテーテル室等を高稼働で回しているのが、昨今の病院の状況である。ただ、その手術が不要だったということにはならないだろうし、医療において必要かどうかの線引きは難しい。医療崩壊で「通常の医療」が行えなくなれば、患者の利益が損なわれ、病院業績も著しく悪化する。
本稿では、稼働額ベースで見た際に、コロナ禍で著しく減少した循環器系疾患に焦点を当て、「通常の医療」とは何か、そして「必要な医療」と「不要な医療」の線引きについて、地域差データを基に言及する。
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次回配信は12月28日5:00を予定しています
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