【北海道介護福祉道場 あかい花代表 菊地雅洋】
新型コロナウイルスの感染拡大への対策が長期化する中、我々はさまざまな場面で前例のない判断を強いられている。そのため、国から示される情報をいち早く確認しながら、分析・判断し、その都度対応しなければならない。
こうした状況で、介護関係者からは、「国が介護現場での対応策をきちんと示さなければ、地域の足並みがそろわない」との意見も出ている。しかし、私はそう思わない。こうした考え方や姿勢では、対応が後手に回って間に合わなくなるからだ。
「取り得る対策を自らが先手先手で取らなければ、利用者や職員の命と健康を守ることができない」-。介護事業者には、このような自覚が求められる。
国は感染予防のガイドラインを明らかにし、サービス事業ごとの特例的な算定要件も提示している。しかし、介護施設や居宅サービス事業者のサービス提供体制は個々で異なっており、国が全ての事業者に共通して示せる感染予防策には限界があるし、その具体策は、それぞれの実態に応じて変える必要がある。
そもそも、介護現場でサービス利用者を守る責任は誰にあるのか。国ではなく、その事業所の管理者だ。介護サービスを受けている利用者の実情をよく知らない国に、全ての判断を委ねることはできないのである。
普段、民主主義を声高に唱える人が、問題が起きて自ら決断しなければならない立場になった途端、手のひらを返したように「することを国が決めろ」「自分は国の言う通りにするだけだ」と主張し始めるのはお門違いもいいところだ。その主張は、民主主義を自ら崩壊させることにつながりかねない。責任を負わなくていいことだけ、自分が主体となって決めるというのは独善主義そのもので、単なるわがままだ。
■事業者自らが利用者と職員を守る努力を
国がすべきことと、事業者や事業主がすべきことの判断基準や線引きが明確にされていない。そのため、個々の状況に基づいて、事業主が自ら判断しなければならない。その際、自分の責任を軽くするために国に責任を強く求めたとしても、国が即応するわけがなく、それによって生じるのは利用者と職員の不利益だけだ。
対人援助事業では、こうした不利益が利用者の暮らしの質の低下に直結する。そうならないために必要なのは、事業主が責任の範囲を広く考え、まず自らが利用者と職員を守ろうと努めること。その取り組みに対して、結果的に国が責任を持って手を差し伸べてくれるのなら、幸運と思えばいい。
国に寄り掛かり過ぎれば、利用者を無責任に放置し、対応する職員を新型コロナウイルスに無防備にさらすことになるかもしれない。そのリスクを何より恐れるべきだ。例えば、提示された情報の解釈を国が明らかにするには、どうしてもタイムラグが生じる。そのため、サービス提供事業者にまず求められるのは、現場の判断で可能な限り対策を講じることだ。
その対策を取るには、事業者自身が適切に情報を集めて判断せざるを得ないことも多い。クラスター(感染者集団)の発生時では、特にそれが求められる。
■老健でのクラスター発生、最大の原因は?
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