【千葉大学医学部附属病院 副病院長、病院経営管理学研究センター長、ちば医経塾塾長 井上貴裕】
緊急事態宣言が発令された首都圏では、道行く人でごった返していた街の様子が一変し、想像を絶する静けさに大都会が包まれている。本来ならば、入学シーズンであり、新たな出会いとそれに伴う行事も多数開催される時期である。にもかかわらず、店を閉じる店舗、在宅勤務を行う企業等も多く、今後、新型コロナウイルスが収束したとしても、経済への不安が付きまとう。皆が暗い気持ちになる中、都内では咲き誇った桜の美しさだけが心の救いになったかもしれない。もちろん、まずは収束に向けて国民が一丸となり、不要不急の外出を避けなければならない。
この局面でも、病院スタッフは命を懸けて必死に闘っている。これに対して国は、新型コロナウイルスが疑われる外来患者の診療に対して、1回当たり3,000円、入院の場合には1日当たり12,000円、さらには重篤な救急搬送患者を受け入れた場合の救急医療管理加算1(950点)の対象とした。加えて、重篤な状態でなくとも算定が可能で、通常の算定日数である7日を超えて、14日まで算定可能等の評価がされることになった。休業補償問題に揺れる中、そして極めて厳しい財政状況においてこのような対応は、命と真摯に向き合う医療機関に対する温かい配慮と捉えるべきだろう。
ただ、病院側とすれば、中等症以上の入院患者を受け入れれば、通常の7対1の看護師配置では不十分であるし、感染拡大を防止するために相当なコストが掛かるわけで、決して十分とは言えない。しかし、世の中を見渡すと10%程度の稼働率となっているホテルが多いようだし、飲食店は完全休業に、タクシーは売り上げ8割減などというケースもある。あるタクシー運転手が、「新型コロナで死ぬ前に、食えなくなって死んでしまうよ」と言っていたことが忘れられない。私たち医療機関には社会的責任があり、それを果たしているからでもあるが、恵まれた業種であると感謝しなければならない。
けれども、この状況が続けば病院業績は相当悪化するのは間違いない。今は経営を語る時期ではないが、落ち着いたら必ず財務的な問題にぶち当たる。本稿では、少し気が早いが、今回のことを教訓にポストコロナの病院経営で求められる施策について提案する。
まず1つ目は、集中治療の重要性とその体制整備だ。
新型コロナウイルスに罹患した患者の多くは重症ではないが、集中治療が必要な患者もいるため、ICUの一定割合を占めている。マスコミの報道でも人口当たりのICU病床数の国際比較などが出されているが、ICUが持つ機能はそれぞれ異なるため、単純にその数値を比較することにはあまり意味がないと感じる。
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次回配信は4月27日5:00を予定しています
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