病院火災で最も多いのは放火―。日本病院会(相澤孝夫会長)は、放火の防止策などを盛り込んだ「病院等における実践的防災訓練ガイドライン」を作成した。入院患者がライターでシーツに放火したといった具体的な事例を取り上げ、失火をなくす防災意識の向上策では放火を防げないと指摘。入院患者らのライターの持ち込みや使用を制限するよう促している。【新井哉】
■火炎瓶が投げ付けられ、廊下などを焦がしたケースも
放火をめぐっては、病院が被害を受けるケースが絶えず、診療体制にも影響が出ている。例えば、放火の被害を受けた東海大医学部付属八王子病院(東京都八王子市、500床)は2014年11月、「放火事件のご報告」をウェブサイトに掲載。病棟の廊下に発煙筒付火炎瓶が投げ付けられ、廊下や天井、壁などの一部を焦がしたことを説明した上で、「皆様に多大なるご迷惑とご心配をおかけしました」とし、診療に支障が出たことをわびた。
「放火を前提とするなら、出火場所に合わせた避難方法についての図上訓練もあってもよい」。日本病院会の相澤会長や岡留健一郎副会長(済生会福岡総合病院名誉院長)、災害医療対策委員会の有賀徹委員長(労働者健康安全機構理事長)らがまとめたガイドラインでは、こうした方向性を明記し、病院火災の特性や対策、火災発生時の対応などを詳述している。
16年の病院・診療所の火災は全国で100件発生し、死者も1人出たことを指摘。病院には自力で避難が困難な入院患者が常に滞在していることに触れ、休日や夜間に火災が発生した場合、「宿直の医師、看護師等の職員が自力避難困難性を伴う多数の入院患者を避難誘導するとともに、同時に通報、初期消火等の初動対応をしなければならず、火災発生時の人命危険が極めて高い」としている。
■死角をなくすなど放火されない環境づくりを
「主な火災原因の解説」の項目では、患者が持っていたライターでシーツや病棟廊下の掲示物に放火した事例を取り上げ、「放火は、失火ではなく故意犯」と指摘。死角をなくしたり、多くの目による監視が可能な環境にしたりするといった「放火されない環境づくり」の重要性を訴え、「可燃物を集積するリネン室の扉の閉鎖や施錠管理は有効」「入院患者のライター等の持ち込みや使用方法の制限も重要」といった対策を示している。
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