【保健医療経営大学 保健医療経営学部 講師 永石尚也】
連載第1回、第2回で見てきたように、医師には労働者と専門家という2つの顔がある。そして、病院の労働環境に関する問題の根本には、労働者としての「裁量」と専門家としての「裁量」との間のジレンマがある。
最終回となる今回は、医師の自律的な働き方を促進するという「働き方改革」の目的に照らして、医師が「自律」的に持つ「裁量」とその広狭に伴う帰結について整理する。
■「労働」の把握
既に見てきたように、医師の労働者性については(研修医を含め)裁判において争いはない。連載第2回における医療法人社団康心会事件で見たように、労働時間についても、固定残業制における「判別」要件が一般的基準として確立され、労働の実態に即して業務従事性も判断されることとなった。これに先立ち、一定の限度を超えた固定残業制が公序良俗違反とされる裁判例が出ている(脚注1)ことからも、労働時間の抑制に向けた動きは着実に進みつつある。
ただし、労働時間の把握という点では、裁判例には尽くされない問題が残っている。例えば、労務管理システムとしては、タイムレコーダーによる打刻での管理、電子カルテにおけるログイン・ログオフの時間を基にした管理に加え、自己申告による管理が一般的だ。実際、現在でも6割弱の病院で採用されている(脚注2)。その一方で、自己申告した情報の精度については、個々の医師自身の遠慮や謙遜も交じり、確たるものとは言い難いことも指摘される。
しかしながら、上記のような医師の自己抑制にかかわりなく、業務従事性が認められることは医療法人社団康心会事件で既に見た。医師個人の自己抑制を理由として、労務管理が不備である現状が追認されているものであってはならない(脚注3)。
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