【社会医療法人財団董仙会 本部情報部長 山野辺裕二】
今回は世界規模で進むITイノベーションが、国内の医療IT業界にはなぜ波及してこないのかを考えてみます。
■医療情報システムも日本ではガラパゴス化
医療情報システムに関するHIMSS(Healthcare Information and management systems society)という団体が、カンファレンスと展示会を毎年米国で開催しています。そのアジア太平洋地域版のイベント「HIMSS AsiaPac17」が9月12日と13日にシンガポールで開催されました。本家米国のイベントには過去参加したことがありましたが、AsiaPacは初参加でした。このイベントは、北は中国・韓国・日本、南はオーストラリア、西はインド辺りまでが対象地域のようです。今回、会場の入り口前の最も目立つ場所の中央にIBM Watson Healthが出展し、その脇を米国の代表的な電子カルテ企業AllScriptとEpicが固めていました。IBMのWatsonは、がんの化学療法プロトコルの探索などで日本でもおなじみであり、会場でも日本の事例を紹介していました。一方、AllScriptとEpicは、オーストラリアやタイの事例を紹介していました。
図1 HIMSS AsiaPac17 展示配置図
https://www.himssasiapacconference.org/ehome/199357/500671/
しかし不思議なことに、私がAllScriptとEpicの展示に熱心に見入っていても、両社からは声を掛けられませんでした。彼らは中国、韓国、日本、台湾といった国に売り込む気が全くなかったのでしょう。
病院にITの導入コンサルティングを行う英国企業の方にも確認しましたが、米国やオーストラリアでは大きなシェアを持っている両社のシステムも、日本での導入実績は皆無のようです。
私たちが普段使っているパソコンやスマートフォンの基本ソフト、その上で動くワープロや表計算のソフトも、ほとんどが米国製です。IBMのWatsonは日本でも使われているのに、世界中で高いシェアを誇る米国製の電子カルテシステムがなぜ日本では全く使われていないのでしょうか。
ちょっと前、メディアでは日本の携帯電話は「ガラパゴス化」していると指摘されていました。それが病院システムの世界でも顕著なようです。「ガラパゴス化」とは、外界と隔絶された環境で独自の進化を遂げた結果、外界から取り残されることを指します。
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次回配信は11月24日12:00の予定です
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