【吉備国際大学 保健医療福祉学部 作業療法学科 准教授 京極真】
対立を回避した方がよいケースもありますが、回避しかしないのは問題です。対立を調整・調停する利点に気付き、対応方法を身に付けるようにしてください。
■対立の「回避」は一般的な方法である
多職種連携において、対立の回避(avoidance)は頻繁に採用される方法です1)。回避とは、意見の対立を避けたり、実際に意見が対立しても調整・調停しなかったりすることを意味します。回避は特に、(1)医療従事者が対立に慣れていない(2)日々の業務が忙しい(3)組織の責任の所在があいまい-といった時に選択されがちです。
また回避は、調和を重んじる文化が根付いた職場でもよく採用されます。そうした職場では、意見の対立は組織に対する脅威と認識され、現に対立があっても、そうした事実はなかったことにされたり、回避する態度がメンバーから受け入れられたりしやすいのです。
回避は無条件に適用すべきではありませんが、先行研究では、幾つかの条件を満たす時に適用してもよいと考えられています1)。
例えば、あなたが意見の対立を調整・調停しなくても、他の人が調整・調停できる時は回避してもよいです。また対立の回避で得られる利益が、調整・調停で得られる利益を上回る場合も、回避を適用できる場面になります。逆に言えば、多くの職員が意見の対立を回避することで、不利益が大きくなるようならば、適用してはいけないのです。
■対立の調整・調停の利点に気付くべし
対立の調整・調停を進めるならば、それらが持つ利点に目を向ける必要があります。
利点の一つには、効率性の向上があります1)。例えば、ある看護師が毎週の会議スケジュールに不満を表明しました。これを回避すれば、会議のたびにその看護師はストレスを味わい、会議のメンバーも不快な気分になります。これは極めて非効率です。それに対し、他の会議メンバーが看護師の意見を踏まえ、会議の開始時間を調整したり、短く終わるように工夫したりするとします。すると、会議メンバーは同じ問題を繰り返さなくなることで、効率性が向上したと言えるでしょう。
もう一つの利点は、多職種連携の質の向上です1)。例えば、カンファレンスで患者の退院支援をめぐって、メンバーで意見が対立しました。そうした場合に対立を回避するのは、議論を無視したり、検討が不十分なまま非効率な状況を放置しておいたりすることになります。そこで、退院支援の在り方をしっかり議論すれば、チームメンバーのアイデアを引き出したり、本当に必要な支援の方法が見えてきたりして、協働しやすくなります。対立を回避した場合、このような効果は見込めません。対立の調整・調停は多職種連携のパフォーマンスを向上させるのです。
このほかにも、対立の調整・調停にはさまざまな利点があります。回避を選びがちな人は、そうした側面にも注意を向けるようにしましょう。
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次回配信は7月7日5:00の予定です
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