【日本医業経営コンサルタント協会 東京都支部 中小病院研究会 外山和也】
ある病院で、かつて「病院業績連動型賞与」を導入したが、スタッフのモチベーションには結び付かず、あまりうまく機能しなかった。
「最終損益」である損益計算書の最終行を、英語ではボトムラインと言う。それは、病院が一丸となって収益を最大化し、経費は最小化させた結果、つまり病院スタッフの汗(と涙?)の結晶であるわけだから、本来は「病院業績連動型賞与」は理にかなった仕組みなのである。
けれども、現場のスタッフにとっては「病院業績連動型賞与」と言われても具体性に欠け、「自分たちがどのようにアクションを起こせばいいのか」「どう頑張ればいいのか」がはっきりせず、なかなか「モチベーションの向上」や「経営参画の意識」、「業績向上の意識」には結び付かなかったのである。
■QIの指標を目標管理制度に応用
経営サイドの使命は、スタッフのモチベーションをいかに維持するかにある。そのため、評価制度にひとひねりが必要だった。「病院業績連動型賞与」は早々に廃止して、QI (Quality Indicator)の指標を目標管理制度に応用して、それを評価の柱とした。
目標管理制度(MBO:Management by Objectives)
グループまたは個人に対して目標を設定し、その達成の度合いで評価を決める制度。1950年代にピーター・ドラッカーが提唱した組織マネジメントの概念とされる。
「業績連動型賞与」
賞与原資を病院の業績に連動させるため、賞与は本来意味するところのインセンティブの色合いが濃くなり、下記のようなメリットがある。
●業績に応じて賞与原資を確定させるので、透明性が高い。
●病院の業績に見合った賞与負担となるので経営上の安全性が高く、
人件費の変動費化が実現できる。
●職員の「経営参画の意識」や「業績向上の意識」を向上させることができる。
●労使間の都度の賞与決定プロセスを簡略化できる。
QI(Quality Indicator)
日本病院会のプロジェクトで、同会のホームページにある説明を要約すると、「自院の診療の質を知り、経時的に改善する」ことを目的とした「医療の質を測定、評価、公表するための指標」。具体的には、「患者満足度」や「入院患者の転倒・転落発生率」など32項目を指標としている。年1回、プロジェクト参加病院が集まり、医療の質改善の事例を発表して、ノウハウを共有している。
■正の連鎖が生んだ、うれしい誤算
さて、この病院はポストアキュートの機能を担う病院なので、QIの指標の中から「入院患者の転倒・転落発生率」や「褥瘡発生率」「在宅復帰率」など、現場スタッフにとって身近で手が届く、つまりは自分たちの頑張りによって向上させることが可能な指標を目標値として、その達成度を評価に活用する制度に変更したのである。
言ってみれば、目線を「現場」レベルに移したわけだ。実に巧みな仕掛けだと思う。
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次回配信は3月28日5:00を予定しています
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