【虎の門病院事務部次長 北澤将】
■痕跡を消したい
「受診記録を抹消したい」との申し出は、一昔前はまれな要求だった。しかし、筆者はここ数年の間に何回も「診療録の削除」を要求されている。診療録は最も重要な病院資産であって、削除は受け入れられない。なぜ最近、診療録の削除の要望が増えているのだろうか。
診療録の削除申し入れが続く背景には、「電子的な足跡の消去」という要望の増加があるのではないか。
スマートフォンが普及し、クレジットカードや電子マネーでの決済が当たり前になる中、仕事や買い物といった日常の営みの多くが個人データとして記録されつつある。事業者に蓄積される膨大な個人データは、新たな価値を生み出すかもしれない。
企業によるデータ収集がもはやマーケティングの必然となる中、今年5月には改正個人情報保護法が全面施行される。改正法ではパーソナルデータ(匿名化された個人データ)の活用を推奨する一方、匿名化した個人情報を技術的に元に戻せないようにすることを求めている。背景には「個人データを事業者に勝手に使われるのは納得できず、サービスの利用履歴や記録は、利用者の意思で削除されるべき」という考えがある。診療録の削除要求もこのようなマインドの広がりによるものではないか。
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次回配信は4月6日5:00を予定しています
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