政策に基づく医療現場の努力で、徐々に短くなる平均在院日数。その結果として起こる病床稼働率の低下は、もはや急性期病院の宿命とも言える。しかし、空床は赤字に直結する。性善説に立った制度設計を“悪用”して対策を講じるべきか否か、病院経営者は葛藤を余儀なくされていると、千葉大医学部附属病院の井上貴裕・病院長企画室長は指摘。その上で、倫理のタガを外さず正攻法で挑み続ける姿勢が病院の生き残りにつながると断言し、幾つかの対策を示す。【佐藤貴彦】
■効果はあるが決断できない病床削減
空床は、人員配置などの費用を投入しているのに収益が生まれない状況だ。しかも、「診療報酬改定にはさまざまな激変緩和措置があるが、空床に対する補てんはない」(井上室長)。急性期病院では投入する費用がかさむため、多くの経営者が頭を悩ませる。
この課題に、いかにして立ち向かうべきか-。その答えとして、井上室長が1つ目に挙げるのは病床数の縮小だ。
患者数に応じて適正化させればコストの無駄を省くことができる。さらにDPC対象病院の場合、診療密度を高めて機能評価係数IIをアップさせる効果も期待できる。
しかし、病床が減ればベッドコントロールの難易度が高まる。また、せっかく投資して造った病棟を閉鎖する経営判断は、特に民間病院にとって「容易でない」と井上室長。決断するとしても、病棟を建て替えるタイミングが現実的だと話す。
最近は、病床削減の決断を診療報酬で促す動きもある。昨年春の改定でできた「地域移行機能強化病棟入院料」は、精神病床を毎年削減することが施設基準だ。「精神療養病棟入院料」などより点数が高く、病床削減にインセンティブを与えている。
井上室長は、一般病床の削減も、診療報酬か補助金で後押しすべきだと提言。「患者さんは減る。何かを造ることへの補助よりも、やめるための手当てが必要だ」と訴え、今後の政策誘導に期待を寄せる。
■転換先、候補は包括ケア病棟だけじゃない
2つ目の対策として井上室長が提示するのは、一般病床の部分的な機能転換だ。実際、この手法を採用する病院が多く、ほとんどが「地域包括ケア病棟」を選んでいるが、「緩和ケア病棟」も有力な選択肢だという。
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