高齢患者の「豊かな最晩年」の実現を目指す青梅慶友病院(東京都青梅市)と、よみうりランド慶友病院(同稲城市)。独自の取り組みで病院関係者の注目を集めてきたが、医療療養病床と介護療養病床を合わせて約1000床を有し、療養病床をめぐる今後の制度改革の影響が避けられない情勢だ。運営する慶成会の大塚太郎理事長は、経営環境の厳しさをひしひしと感じながらも、患者・家族が求めるサービスを提供し続けたいと話す。【佐藤貴彦】
入院患者の一日は、ベッドから起きて着替えるところから始まる。家族やケアワーカーの手助けを受けて身だしなみを整えると、クラシック音楽が流れる廊下を通り抜ける。排泄物などの管理を徹底しているから、院内は驚くほど臭いがしない。
その先で、定期開催されるコンサートを鑑賞することもあれば、自身がコーラスに興じることもある。また、晴れた日は屋上のテラスで、車いすに座ったまま富士山や東京スカイツリーを眺めることができる。転落防止用の柵の一部が、透明なアクリル板になっているのだ。
年末年始や誕生日などに、院内の談話室を親族ら十数人で借り切り、パーティーを開くこともある。おしゃれを楽しみたい日のため、男性にはネクタイ、女性には帽子やネックレスが用意されている。廊下の鏡台にしまってあり、鍵が掛かっていないから自由に着用できる。
日々の食事は、落とせば割れる陶器に載ったものが運ばれてくる。また月に数回のイベントで、すしやローストビーフなどの豪華な料理が並ぶ。普段はソフト食を少し口にするだけの患者が、元気なときと同じようにすしを頬張り、周囲を驚かせることも少なくない。
慶成会が運営する2病院では、入院患者がこんなふうに人生の最晩年を過ごしている。患者の平均年齢はどちらも90歳近い。平均在院日数は、青梅慶友病院が3年4カ月、よみうりランド慶友病院が2年7カ月だが、末期がんを患っていて数日で亡くなる人もいる。青梅慶友病院では約9割、よみうりランド慶友病院では約8割が院内で息を引き取る。
療養型病院の入院生活の一般的なイメージと一線を画すが、大塚理事長は、高齢になって自立困難になった患者が、亡くなるまで数年の間、豊かな生活を送るのに必要なサービスを用意した結果だと説明する。医療や介護もサービスの一つだが、特に医療は提供するばかりでなく、患者のQOLを第一に考えて本当に必要か見極めることが大切で、「そこに高齢者に特化した医療を30年以上やってきた強みがある」と話す。
■満床なのに…厳しさ増す経営
手厚いサービスには、大量の人員と物品が欠かせない。そのコストを賄うため、2病院では差額ベッド代を設定している。差額ベッド代を含めた平均的な入院費用は4床室の場合、青梅慶友病院が月34万円ほど、よみうりランド慶友病院が月48万円ほどだ。また、すしなどのイベント食は数千円の別料金で提供する。それでも、2病院とも満床の状態が絶えず、イベントに家族同伴で参加する患者も多い。
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