福井市を中心に在宅医療を行うオレンジホームケアクリニック(紅谷浩之代表)。現在、230人ほどの患者を在宅で診療し、年間約80人を看取っている。
3年半ほど前に、地元の商店街で「みんなの保健室」を開いた。地域の人が買い物帰りに気軽に立ち寄り、世間話をしながら健康相談や健康チェックをしている。時折、人生の最後の時間をどこで、どうやって過ごしたいのかをさりげなく尋ね、一緒になって考えることも、保健室の大切な役割だ。
紅谷代表は、明るい雰囲気の中、最期のことまで話し合えることは、結果としてハッピーな地域づくりにつながると信じている。【大戸豊】
胃ろうの是非が話題になった数年前から、医療や介護の現場では、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の必要性が指摘されてきた。一般にも、人生の最終段階の過ごし方を、事前に考えておこうという認識は、少しずつ広がっている。
厚生労働省では、2014年度に「人生の最終段階における相談支援事業」をスタート。翌年度には、診療所で初めて、同クリニックを含む2つの診療所が選定された。
紅谷代表は、ACPは病気で人生が脅かされた時、病院で突然「残りの人生をどう過ごしますか」と聞かれるものと思われていないか、危惧していると言う。何の準備もなしに「人生の最終段階」のあり方を決めるのは難しい。体が痛くて、つらい時期なら、なおさら弱気な選択になる。その時のために、時間をかけて準備をしておくことで、本人も家族も後悔のない選択ができるかもしれない。
紅谷代表は在宅医療での経験を通じ、受けたい医療や過ごしたい場所を決めておいた人は、不本意な入院や急な方針転換、在宅の診療回数や緊急往診が少なく、病状も安定した人が多いという実感がある。ただ、そういった人は、たまたま強い意志を持って、「次の手術はしない」「最期は家で」などと、自分自身でACPができていた人だと言う。
紅谷代表は、地域の人に、元気なうちからの準備が大切なことを伝えておくことで、病気になっても、障害を抱えても、その人らしく過ごせる人が増えてほしいと思っている。そして、最期の迎え方まで自然に話し合えることが、結果としてハッピーな地域づくりにつながると考えている。
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