診療報酬改定の前年に、中央社会保険医療協議会(中医協)が実施する「医療経済実態調査」(医療実調)。その結果は、改定率をめぐる議論の論拠となるが、有効回答率の低迷が課題とされており、来年の調査に向け、今月から対策が検討される予定だ。そんな中、中医協が先月開いた総会で、公益委員の荒井耕・一橋大大学院教授が、医療法に基づいて医療法人が届け出ている事業報告書などを活用し、医療実調の補完データを作成するよう提案した。補完データが必要な理由を荒井委員に聞いた。【佐藤貴彦】
中医協は2018年度の次期改定に向け、医療実調を来年実施する予定で、その準備を進めており、中医協の小委員会が今月から12月にかけて、調査項目などを検討することになっている。その中で、有効回答率の向上策も議論する予定だ。
荒井委員は、先月28日の中医協総会で、医療実調の結果を補完するデータの作成を提案。これに対し、厚労省の担当者は「小委員会で議論していただければ」と応じている。
■1.6%の回答は全数調査と同じ傾向か
なぜ、補完するデータが必要なのか-。毎回、有効回答率50%程度とされる医療実調の結果が、医療現場の実情と懸け離れているかもしれないという懸念をぬぐえないためだと荒井委員は説明する。
というのも、同省の昨年の医療施設調査では、全国に病院が8480施設、一般診療所が10万995施設あった。それを踏まえると、同年の医療実調の有効回答施設は、病院全体の16.1%、一般診療所全体の1.6%ということになる。
「1.6%のデータと全数調査の結果は同じ傾向を示すかもしれません。しかし回収率が低くサンプル数が少ないと、サンプリングバイアスなどから、現場の実情を反映している、していないという争いが生まれます」と荒井委員は指摘。“無用な争い”を避けるためにも、回収率が高く回答数が多いデータが必要だと強調する。
医療法人は、病院開設者の約7割、一般診療所開設者の約4割に当たる。もし、その全数が調査できれば、偏りのないデータが得られ、この問題を解消できるという。
■補完データで医療機関側の負担増えない
具体策として荒井委員が示した案は、医療法人が毎年、都道府県知事に届け出ている事業報告書や損益計算書などを活用することで、医療機関側の負担を増やさずに、医療機関の経営実態を表すデータを作成、医療実調の結果と併用するものだ。
(残り1390字 / 全2535字)
この記事は有料会員限定です。
有料会員になると続きをお読みいただけます。
【関連記事】