1980年10月の終わりごろ、わたしは米国の首都ワシントンの郊外にある国立衛生研究所(NIH)に着任します。わたしが師事することになったジェリー・D・ガードナー博士のグループにいた研究者は、全部で10人ほど。英国、トルコ、スペインと国際色豊かで、博士のサブチーフを務める一人を除き、非常勤の若手ばかりでした。
博士の研究者への対応は決まっていて、ご自身の研究テーマのうち、比較的小さな分野をやらせて、その様子を見てから、好きなテーマをやらせるべきかどうかを見極めていました。
わたしも最初は、博士から与えられた分野の実験に取り組みました。比較的簡単なテーマでしたが、ある日、博士はわたしのデータを見るや、別の研究者を呼び付け、「同じ実験なのに結果が違う」とおっしゃいます。その研究者は、その実験で既に論文も書いており、データの数値が異なるのは、わたしのやり方がまずかったせいだと思うのですが、「どちらが正しいのか、2人で検証しろ」と、わざわざ指示を出したのです。
それを聞いてわたしは、以前お世話になった滋賀医科大の戸田昇教授(現名誉教授)を思い出しました。徹底した実証主義―。世界で通用する研究者が何を大切にしているのか、改めて実感した出来事でした。
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