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■スクリーンとタブレット
京セラドキュメントソリューションズジャパン(大阪市中央区)は、字幕表示システム「Cotopat(コトパット)」を提供する。音声をリアルタイムで認識し、文字・図解・動画をスクリーンやタブレットに表示する。会話の聞きづらさを解消し、外国語にも対応。コミュニケーションを円滑にする。
「Cotopat」は聴覚に障害のある人や高齢者の聞こえにくさを解消するために開発され、2023年8月に販売が始まった。元々は受付窓口担当者の言葉を、相手に表示する一方向のコミュニケーションツールだった。その後バージョンアップを経て、134言語に対応した外国語翻訳機能も備えた双方向表示が可能になった。外国人への検査説明や入院説明もスムーズに行える。
現在は、透明スクリーンに情報を表示する「Cotopat Screen」と、タブレットに表示して、さまざまな場所に持ち運べる「Cotopat Mobile」の2モデルがある。
「Cotopat Screen」は、透明のアクリル板に発話内容がリアルタイムに表示される。医療機関や薬局の窓口において、発話者と向き合って使用することで、相手の表情やしぐさを見ながら内容を把握できる。一般的な自動翻訳ツールとは違い、下を向いて目線を外すことがなく、対面での豊かなコミュニケーションのメリットが損なわれないことが、利用者に評価されているという。
また、「Cotopat Screen」はお互いの会話ログを記録することもできる。生成AIによって、会話の要約も可能だ。医療機関や薬局で患者が検診や服薬の説明を受けた後、その場にいなかった家族などにも、会話の内容を共有することが簡単にできる。
タブレット表示モデルの「Cotpat Mobile」は、病室への移動時やリハビリ時でも使用できる。いずれのモデルも文字だけではなく、図解や動画でも情報を表示することができ、伝わりやすさを追求している。
■障害者との交流から商品化
「Cotopat」は、21-22年の研究開発期間を経て商品化された。開発担当者の山本康司氏がこの構想に至ったきっかけは「スマートインクルージョンという発想」という本を読んだことだった。「障害者は高齢者の先輩である。超高齢化社会を迎える日本にとって、障害を持つ人の視点は非常に重要」という内容に感銘を受け、障害者向けの製品を考えるようになった。
20年3月末ごろに、視覚障害者のワークショップに参加するようになり、さまざまな障害のある人に出会う。しかし直後に新型コロナウイルス感染症の流行による緊急事態宣言が発令。視覚・聴覚障害者とのコミュニケーションも、より難しいオンラインで行うことになった。山本氏にとって、そうした経験がコミュニケーションの課題をさらに深く考えさせるようになったという。
コロナ禍、山本氏はある聴覚障害者から、「マスク生活になり、相手の口元が見えず、話している内容も分かりにくくなり、困っている」旨の相談を受けた。そこでマスク装着者の声がマスクに字幕で表示される「字幕マスク」を試作。好意的な声もあったが、「表示領域が小さい」「文字がゆがむ」といった課題もあった。そこで、コロナ禍で多く設置されたアクリル板をスクリーンにすればいいのではと考え、後に「Cotopat Screen」となるプロトタイプ初号機が作られた。
その後、実装に向け横浜市中区役所や聴覚障害者を対象にした実証実験を行い、商品化に至った。「試作品を初めて見せたときの、皆さんの驚きと喜びが混ざったような表情は、忘れることができない」と山本氏は振り返る。実証実験で病院など医療機関に訪問した際、外国人への説明をスムーズに行いたいという要望を聞いたことが、双方向翻訳対応の開発のきっかけになったという。
社会医療法人財団新和会八千代病院(愛知県安城市)では、健診センター窓口に「Cotopat Screen」を導入。患者への健康診断の説明や、施設案内に活用している。以前は窓口で、外国人や高齢者の患者が来院した際、日本語が分からない、言葉が聞き取りづらいなどの問題がたびたび起こっていた。
「Cotopat Screen」を導入し、会話のリアルタイム表示や双方向翻訳、図解や動画の表示などの機能を活用。通常の会話はもちろん、医療の専門用語にも対応可能だ。事前に読み方とテキストを「Cotopat」に登録しておくことで、誤変換なく字幕表示ができる。音声認識率の高さも現場スタッフに喜ばれている。以前よりも正確でスムーズな情報伝達ができたことで、患者の健康診断の理解促進や疑問解消に貢献し、より安心感につながったと感じているという。
京セラドキュメントソリューションズジャパンでは「Cotopat」を導入と同時にスムーズに使えるよう、初回のシステム設置・設定の際に、操作説明や、強調単語・図解登録の説明を行う。購入時に基本的なサポートサービスへの加入が必要となる。年額もしくは月額利用料の支払いで、クラウドを活用した月1,500分までのテキスト変換・翻訳サービスの利用を保証し、追加料金で規定時間を超える利用もできる。文字と一緒に表示する図解の作成サポートにも対応する。
京セラドキュメントソリューションズジャパンでは、「Cotopat」を通じて、医療関係機関をはじめ、さまざまな場面における会話の壁を乗り越えたコミュニケーションの活性化に寄与し、障害者や高齢者、外国人など、誰もが衰えや疎外感を覚えることなく、共生社会の一員としてお互いに安心してつながり合える社会の実現に貢献したいという。
▽京セラドキュメントソリューションズジャパン株式会社「Cotopat」
https://www.kyoceradocumentsolutions.co.jp/products/ict-service/communication/cotopat/