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■検索数分で適切な情報
臨床医師は1日当たり約11件もの臨床疑問に直面するが、その半分以上が未解決のままであるとされている。ウォルターズ・クルワー(東京都港区)の臨床意思決定支援リソース「UpToDate(アップ・トゥ・デイト)」は、医療に関する情報検索を効率化し、平均1-4分以内に疑問に対する答えを導き出す。
現在、世界191カ国5万100施設以上が導入していて、300万人以上の医療従事者が臨床現場で活用している。25の診療領域を網羅する1万2,800件以上のレビュー記事から「標準治療」「推奨治療法」「疾患情報」などの最新情報を得ることができる。臨床上の疑問解決と、「科学的根拠に基づく医療(EBM)」を支援する。
「UpToDate」では7,500人以上の臨床専門家と編集者が、臨床や医薬品に関するコンテンツ開発に携わっている。入手可能な420誌以上の学術誌、診療ガイドラインなどを徹底的に評価した上で作成される。電子医療記録(EHR)システムとも連携。EHRシステムの画面から臨床情報や薬剤情報に直接アクセスできることで、ワークフローを合理化することに加え、臨床医はより情報に基づいた意思決定を行える。信頼性の高い情報をより迅速に提供できるよう、生成AIなど最新の技術との連携にも取り組んでいる。
「UpToDate」の医薬品情報を、医師と薬剤師、さらには看護師が共通の情報源として参照することによって、医薬品の適正利用や薬物療法に関するチーム医療の推進を支援する。このほど、より詳細な医薬品情報に特化したサービスである「Lexicomp(レシコンプ)」の名称を、「UpToDate Lexidrug(アップ・トゥ・デイト・レキシドラッグ)」に改め、医療チーム共通の臨床・投薬意思決定支援リソース「UpToDate」シリーズとしての位置付けを強化した。
「UpToDate」と「UpToDate Lexidrug」を組み合わせて活用することによって、化学療法や免疫療法といった、エビデンスを踏まえた最新医療や、医薬品の医学的妥当性や経済性などを総合的に評価して作成する医薬品の使用指針「フォーミュラリ」の導入や実践を促す。これにより、治療の有効性・安全性・経済性を高めていく。
「UpToDate」は1992年に、腎臓専門医で医学教科書の執筆者でもあったバートン・ローズ氏が自宅の地下室で開発。当初は、腎臓病に特化した参考ツールとして、フロッピーディスクで提供していた。ローズ氏は開発の目的として「臨床現場で医師が直面する最善のエビデンスを基に回答し、具体的かつ実践的な治療推奨を提示すること」を掲げた。
ウォルターズ・クルワー・ヘルスカントリーマネージャーの藤堂正憲氏は、「UpToDateは30年以上にわたり、医療従事者が臨床上の疑問を解決し、正しい判断を下すためのエビデンスに基づく情報を提供してきた」とこれまでの活動を振り返った。今後について藤堂氏は「デジタル技術を活用した医療の変革が『医師の働き方改革』などによりさらに加速する中で、業務の効率化を図りつつ医療の質向上に貢献する」としている。
日本国内においては、約800の医療機関が「UpToDate」を利用している。大学病院や基幹型臨床研修病院のほとんどで採用されているほか、県庁病院局による一括導入も進んでいるという。
2022年にかつての兵庫県立姫路循環器病センターと製鉄記念広畑病院を統合・移転し誕生した兵庫県立はりま姫路総合医療センター(姫路市、愛称:はり姫)も、「UpToDate」の導入病院である。県西部の播磨姫路医療圏は、人口が約82万人。姫路市が約53万人を占めるが、周辺地域からの患者の流入も多い。はり姫では地域医療機関との連携を重視しながら、救命救急医療や高度専門医療を提供し、地域医療の中核としての役割を担っている。
「UpToDate」の導入により、はり姫では医師がエビデンスに基づいた最新情報に、迅速かつ容易にアクセスできるようになり、診療の質が向上したという。患者ごとに適切な治療法を短時間で調査できるので、限られた時間の中で効率的な意思決定につながっている。
同院は地域医療の中心的存在として、地域の医療機関との関係構築にも注力している。患者紹介の情報共有における課題についても、ほかの医療機関も含めて「UpToDate」を活用化して解決に努めているという。
さらには研修医も「UpToDate」を活用している。これによって症例検討や臨床での疑問解決に役立てている。研修医は自己解決力を養い、指導医にとっても効果的なサポートにつながっているという。「UpToDate」を活用した情報共有は、医療チーム全体での治療方針を活性させ、診療の標準化にもつながっているという。
■現場に寄り添うサポート
「UpToDate」導入後のサポート体制については、対面・オンラインを問わず、医療従事者や病院図書館司書からの要望に柔軟に対応する。「UpToDate」の基本操作や活用方法に関する製品説明会、病院の要望で内容や時間をカスタマイズした個別説明会を実施。さらには院内の通路などにブースを設置し、「UpToDate」のIDとパスワードを利用者が登録するための登録会も実施する。病院内での告知やイベント促進用に、ポスターやカスタマイズ可能な資料を作成・提供する。
利用者への情報提供の一環として、最近追加・更新された「UpToDate」のコンテンツや、アクセスの多いコンテンツのランキング、EBMの実践・教育に携わる医療従事者のエッセーなどを含む、日本オフィスで独自に編集したニュースレターを定期送信する。また、グローバル本部からは英文ニュースレターも送られてくる。
リクエストが多いコンテンツ利用に関するサポートもある。「UpToDate」に含まれる画像やデータを、学術目的で活用するためのガイドライン、医学論文や資料作成での「UpToDate」コンテンツ引用のルールも案内する。
▽ウォルターズ・クルワー「UpToDate」
https://www.wolterskluwer.com/ja-jp/solutions/uptodate