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■マルチデバイス対応
現在、医療現場では緊急連絡から細かな確認事項まで、コミュニケーションが電話や対面で行われることが多いが、医療関係者は多忙ゆえに、いつも会話の時間がとれるとは限らない。SCSK(東京都江東区)の「Dr2GO(ドクターツーゴー)」は、チャット機能によるコミュニケーション改善や、情報共有機能を活用した医療関係者の働き方改革を進めていく。
「Dr2GO」はiPhone、iPad、電子カルテPCでの利用が可能。複数の種類の端末に対応し、医療従事者は場所や時間を問わず、必要な情報に迅速にアクセスできる。電話や対面の会話を、気軽にいつでも返信できるチャットに置き換え、情報共有の無駄をなくし、業務の効率化を行う。
多職種間の複数人で連絡が取れるグループチャット機能も搭載している。さらに大きな特徴としては、電子カルテ情報を共有でき、「患者チャット機能」という電子カルテビューアとチャット機能を組み合わせた独自の機能がある。この機能により、患者ごとの診療情報を確認しながら、多職種間で情報共有やディスカッションを行うことができる。また、リハビリなどの動画情報の共有も行える。
この「患者チャット機能」は、院外にいる医師とも連携が可能で、電子カルテの参照や相談対応もスムーズに行える。これにより判断の精度が向上し、病院からの呼び出しの回数が減る。導入した麻生グループの飯塚病院(福岡県飯塚市)の医師は、「休日に現場に出向く回数が30%減少した」と話す。電子カルテはマルチベンダー対応で、院内で利用中の電子カルテと連携することも可能だ。
地域医療連携機能も活用できる。基幹病院と地域の病院間の連携を強化する。基幹病院と地域連携病院間でベッドの空き状況を共有。転院先候補を自動提案する機能がある。従来は電話やFAXで共有していた転院調整に必要な情報を、「Dr2GO」上で共有し、地域医療連携を強化する。基幹病院の病床回転率の向上や、地域連携病院との関係強化が期待できる。
セキュリティー面では厚生労働省・経済産業省・総務省の「3省2ガイドライン」およびISMSに準拠している。
■医師の働き方改革に対応
「Dr2GO」の開発目的は、2024年4月に始まった医師の時間外・休日労働の上限規制などの「医師の働き方改革」に対応すること。医療現場では従来の主治医制から、チーム主治医制・複数主治医制(チーム制)への移行が進んでいた。しかしチーム制において重要な情報共有について、電話や口頭、ホワイトボードで情報を伝えるといった、アナログな方法も残っていた。また転院などに必要な医療機関連携の方法も電話やFAXが主流で、電話の行き違いやFAXの情報が最新でないといった課題もあった。
このような課題に対しSCSKでは、まず▽医療従事者の業務効率化(働き方改革)▽地域医療の効率化-を掲げ、最終的に▽健康増進(未病・予防)で国民の健康に貢献-をテーマとして取り組んだ。18年から大原記念倉敷中央医療機構倉敷中央病院(岡山県倉敷市)の医師と協力する形で、iPad100台を配布し、医療関係者と共にコミュニケーションツールを作っていった。
社会医療法人蘇西厚生会松波総合病院(岐阜県笠松町)では、23年から「Dr2GO」を利用している。副院長である草深裕光氏は、20年の新型コロナウイルス感染症の流行が契機だったと振り返り、「対面のコミュニケーションがチャットやオンラインに移行していった。チャットは複数人への一斉連絡や情報共有が簡便なだけでなく、議論や相談といった情報交換にも向いており、時間削減にもつながる」と導入のメリットを語った。同院では21年にPHSの代替としてiPhone800台を全職員に導入したが、これまでのチャットツールではiPhoneからアクセスできなかったり、電子カルテネットワークで使用できなかったりするといった課題があった。
そこで「Dr2GO」が候補に挙がった。iPhoneに対応していることに加え、患者チャットの機能があり、電子カルテネットワーク上の全てのデバイスからいつでも利用できる、唯一のツールだったからだ。
導入効果としては、▽電話対応の回数の減少▽タイミングを気にせず、多忙な医師とも円滑にコミュニケーションを図れること▽患者への介入時間を維持した上で、残業時間を36%削減できること-が挙げられるという。
医師は隙間時間にチャットで返信。医師の傍島卓也氏は「電話応対の回数が、1日平均80回から30回程度に減少したことで、集中して患者に向き合う時間が増えてきている」とした。医師に連絡をする側も、タイミングを気にすることなくできるほか、患者を担当する複数の医師に一斉に連絡でき、急ぎの書類にもすぐ対応できるようになったという。
リハビリ技術室では、「Dr2GO」をチームの予定管理に活用している。理学療法士の荒川優也氏は、「Dr2GOの使用により、スタッフ間の電話の回数が減った」と話している。「以前は電話で30分ほどかかっていた予定調整が、10分くらいで終了するようになった。患者への介入の時間ができ、さらには取得単位数が増えたにもかかわらず、残業時間が36%減った」と説明した。
松波総合病院の今後の展望として草深氏は、「Dr2GO」を地域医療連携に活用していくとした。また「今後も患者を中心としたコミュニケーションの実現と、医療従事者の働き方改革につながる機能の拡充を期待している」と語った。
SCSKでは今後も医師の働き方改革や地域医療のDX化に取り組み、社会課題解決と事業性を併せ持つ企画実現に取り組んでいく。
▽SCSK株式会社「Dr2GO」
https://www.scsk.jp/sp/dr2go/