介護事業者の倒産が増えている。東京商工リサーチによると、2022年の倒産件数は143件で過去最高に。休廃業・解散も最も多かった。東京商工リサーチ情報本部情報部課長の後藤賢治氏に、介護事業者の倒産の現状と今後の見通しについて聞いた。(聞き手・川畑悟史)
-コロナ禍での介護事業者の倒産状況を教えてください。
2022年1-12月の介護事業者の倒産件数は、統計開始以来最も多い143件でした。いろいろ要因がありますが、コロナ感染を恐れた利用控えやコロナ感染防止へのコスト増、光熱費などの高騰によるコスト上昇などです。特に、光熱費や食材、ガソリン代などの物価上昇による負担増は昨年後半以降顕著になりました。介護報酬の中でやりくりする事業者にとって、こうした物価高によるコストアップ分を価格に転嫁することが難しい状況にあります。複数の要因が絡み合い、収益が悪化した事業者による倒産が目立ちました。
21年の倒産件数は81件と低い水準にありました。前年に比べると37件少なかったのですが、大きな要因はゼロゼロ融資や国・自治体のコロナ関連の支援策が小規模事業者にも行き届いたことにあります。22年に入ると、こうした支援の縮小・終了の中で、業務改善できない小規模事業者が倒産してしまうケースが多くありました。
ただ、コロナ前から介護事業者の倒産は少なくありませんでした。16年から倒産件数は年間100件超えていました。相次ぐ異業種の参入により事業者が増える一方で、職員の手当てが追い付かず、しっかりしたサービスを提供できず、倒産する事業者が目立ちました。20年はコロナ禍も加わり、その当時の過去最多を更新。21年はコロナ支援があって、いったん落ち着きましたが、22年はその反動もあって大幅に増えたという状況です。
■物価上昇の影響も
―22年の倒産で目立ったのは小規模事業者ですね。
そうです。従業員数別で見ると、4人までの事業者の倒産件数は85件と全体の約6割を占めました。5-9人の事業者を含めますと8割を超えています。コロナの影響をモロに受けたのは規模の小さい訪問介護やデイサービスの事業者なのですが、コロナ支援で支えられたのも、こうした事業者でした。その支援が縮小・終了する中で物価高に見舞われました。規模が小さい分、物価高をカバーできるような大きなコスト削減もできず、事業が立ち行かなくなり、倒産するというケースが22年は目に付きました。
―クラスターの影響はありましたか。
クラスターが直接起因して倒産したというケースは一部ではあるものの、どの程度影響したのかについては明確には言えません。
ただ、クラスターを恐れて、利用客を少し減らして感染防止に努める小規模事業者にとっては厳しい経営環境に追い込まれました。利用者が減るということは、介護報酬も減るわけですが、その一方で、さまざまな物やサービスが値上がりしています。先ほどもお話ししましたが、値上がりに対しての価格への転嫁が難しい介護サービス事業の中で、利用者減による収入減は、収支のバランスを崩すという悪循環に陥っています。
それだけにクラスターは直接・間接問わず介護事業に大きな影響を与えていると考えています。
■通所・短期入所介護事業の倒産は前年の4倍増
―業種別での倒産件数として最も多かったのは「通所・短期入所介護事業」でした。
全体の倒産件数のうち通所・短期入所介護事業が69件と半数近くありました。前年(17件)のほぼ4倍です。最も大きな理由は、機能訓練型デイサービスの経営とFC事業を全国展開していた「ステップぱーとなー」とグループ会社の連鎖倒産です。その関連だけで31件ありました。
M&Aや福祉貸付資金の利用に加え、投資家からの資金調達などで業容拡大を進めていたのですが、コロナによる施設利用者数の減少で、介護報酬が落ち込み資金繰りがひっ迫したのが倒産の主因です。ステップぱーとなーグループの負債合計は35億円を上回っています。
もっとも、それを除いても前年より大幅に増えており、大手事業者との競合が激化していることがうかがえます。
―ステップぱーとなーは、M&Aなどで業務拡大してきたということですが、今回の倒産から見えてくるものは。
経営者の高齢化による事業譲渡などから、介護業界では、しばらくM&Aに関心を寄せていくでしょう。ステップぱーとなーは、エリア拡大のため買収を強めてきた中で、コロナの影響を受けたというケースですが、安易な規模拡大への警鐘という見方もできます。
元々、16年ぐらいから介護事業者の倒産が増えているのは、異業種から安易に進出したケースも多いというのも背景にあります。もちろん介護事業は市場拡大が見込まれるので、手っ取り早く、買収して事業拡大しようという考え方はあると思います。ただ、現状の介護報酬の中で、利用者への簡単なサービス提供で利益を上げるのは難しく、しっかり加算を取っていく必要がありますが、そのためには優秀な人材が必要になります。その事業所にいなければ育成しなければなりませんが、一朝一夕にはできません。また、優れた職員がいたとしても、キャリアパスをしっかり描いている介護職員も多く、処遇のいい事業所へ転職することもあり得ます。優れた人がいなければ、利用者は減り、収入も減る-という悪循環に陥ることが想定されます。介護事業のノウハウもなく、単に利益を追うために規模拡大をしていくという発想は危険ですね。
■22年の休廃業・解散件数を注視
-23年についてはどう見通していますか。
マスク着用が個人判断になるなどコロナ対策は緩和されていくので、利用者は戻ってくるとは思いますが、一方で、物価高がボディーブローのように効いてくるので、楽観できる状況にはありません。
我々が注視している数字は22年の休廃業・解散の件数(495件)です。この件数も過去最多を記録したのですが、実は、休廃業・解散件数が多い年の後は、倒産が増えるという傾向にあります。事業の見通しが明るければ、事業を継続したり、やめる場合は譲渡を選択したりするわけです。
倒産と休廃業・解散の違いは、負債を残して事業をやめるかどうかです。例えば、事業を休止し、所有する不動産で負債を一掃しようと考えていたものの、想定より不動産が高く売れず、多くの負債が残る場合は倒産に移行します。こうした休廃業・解散から倒産に向かう事業者が、どのタイミングで表面化するかはケースバイケースのため、23年に噴出するかどうかは何とも言えません。ただ、22年が過去最高の倒産件数を記録したことから考えると、23年も増勢は変わらないのではないかと、今のところみています。
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