医療DXの推進に不可欠なのがデータの利活用だ。特に救急医療や循環器病の分野では、情報取得の可否で救命率や予後に影響が出てくるため、情報の利活用を中心にした「救急医療DX」や「循環器病DX」への期待が高まっている。総務省消防庁の救急業務のあり方に関する検討会と厚生労働省の循環器病対策推進協議会の委員を務める、日本体育大学大学院保健医療学研究科長の横田裕行教授に現状や課題、今後必要となることなどを聞いた。【新井哉】
■病院選定時に最初から同じことを説明、救急現場に課題
「救急医療DX」の柱の1つになると見られているのが、マイナンバーカードの活用だ。総務省消防庁は、マイナンバーカードを活用した救急業務の迅速化・円滑化に向けたシステム構築の検討について、第2次補正予算案に1億円を計上するなど、実現に向けた動きを加速させている。マイナンバーカードを活用し、「オンライン資格確認等システム」から傷病者の医療情報などを閲覧できるようにすることで、救急業務の迅速化・円滑化を図る狙いがある。その背景には救護活動の課題がある。
横田教授は、「救急隊が大変なのは、1人の傷病者に対して複数の病院選定をしなければならない時、その都度最初から同じことを説明することだ」と指摘する。新型コロナウイルス感染症の流行拡大時には、全国で受け入れ先が見つからず、搬送されるまでに長時間を要する「救急搬送困難事案」が相次いだ。救急隊は、受け入れてくれそうな医療機関に電話で搬送者のバイタルサインや救急車を要請した経過などを含めた患者情報を伝え、受け入れの可否を聞くが、医療機関から断られて次の医療機関に電話する際、また同じような説明を繰り返す必要がある。
このような状況に加え、横田教授は、「救急の状況は本人も想定していない。交通事故に遭ったり、倒れたり。そのため、お薬手帳は携帯していない方が多いので、救急医療機関では薬の状況がほとんど取れない」と課題を挙げる。たまたま携帯品の中に、受診票や診察券が見つかった場合は、医療機関、クリニックに電話して情報を得るようにするが、救急は時間が日中とは限らない。特に夜間や休日は医療機関が休みの場合が多く、重要な情報がなかなか取り切れないという。「循環器や脳卒中は時間が勝負なので、そういう情報が取れなければ、質の高い医療を提供できない場合がある」と指摘する。
マイナンバーカードを健康保険証として利用するオンライン資格確認を活用すると、このような非効率的な状況は改善される可能性がある。
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