【北海道介護福祉道場 あかい花代表 菊地雅洋】
100代目の内閣総理大臣となった岸田文雄首相は、社会の「財」の再分配を政策目標に掲げている。就任後初の所信表明演説で、その実現に向けた具体策として、「新型コロナ、そして少子高齢化への対応の最前線にいる皆さんの収入を増やしていきます。そのために、公的価格評価検討委員会を設置し、公的価格の在り方を抜本的に見直します」と述べた。先の自民党総裁就任演説に引き続き、看護や介護、保育などの現場で働く人の賃上げを行う方針を打ち出した。
その政策を巡っては、財務省の矢野康治事務次官が、「バラマキ合戦」などと批判したが、これに対して自民党の高市早苗政調会長は10日のNHK番組「日曜討論」で、「大変失礼な言い方」と不快感を示した上で、「基礎的財政収支にこだわって本当に困っている方を助けない、未来を担う子どもたちに投資しない、これほどばかげた話はないと思っている」と反論した。そしてプライマリーバランス(基礎的財政収支、PB)の黒字化目標について、「一時的に凍結に近い状況が出てくる」との見方を示した。
もともと、高市氏の政策は物価安定目標のインフレ率2%を達成するまで、国と地方のPBを巡る規律を凍結するというもので、国の借金問題について、「名目成長率が名目金利を上回っていたら財政は改善していく」「自国通貨建ての国債なのでデフォルト(債務不履行)も起こらない」という意見を持っている。このような考え方で、内閣を支える与党の有力幹部が首相とタッグを組んで、財務省という“伏魔殿”と戦う姿勢を示したのだ。
介護職員などの賃上げ方針については、このほか、後藤茂之・厚生労働相や山際大志郎・全世代型社会保障改革担当相らも協力・推進する立場を示しており、今後の新たな財政出動が現実的になってきた。
介護職員らの収入を増やすための具体策は今後示されると思われるが、「公的価格の在り方を抜本的に見直す」との方針のため、政府は来年4月に控えている診療報酬改定だけでなく、2024年度の「介護・診療ダブル改定」での報酬の引き上げも見据えているのだろう。
しかし、その政策は果たして基本報酬の見直しにつながるのか、それとも処遇改善加算の積み上げだけにとどまるのか-。介護事業経営者にとって、これが気になるはずだ。
■賃上げの具体策、いち早くキャッチすべし
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