病院経営者はエビデンスに基づく正しい現状認識による、経営判断が重要だ。宮坂信之氏(東京医科歯科大学名誉教授)は、東京医科歯科大学医学部附属病院・病院長を務めた当時、井上貴裕氏(現在、千葉大学医学部附属病院・副病院長、病院経営管理学研究センター長、ちば医経塾塾長)を経営参謀とした。当時の病院を取り巻く環境や医療界の今、これからについて対談を行った。【編集、齋藤栄子】
対談は2月16日、オンラインで実施
井上(以下、敬称略):病院長のリーダーシップとはどうあるべきと考えるか。
宮坂:自分は医学の専門家ではあったが、当初は組織のトップとしての知識も、経験も持っていなかった。大学人としての評価は、「診療・教育・研究・(自分の診療科の)管理運営・社会的貢献」で評価される。しかし、病院長になると、経営に関する知識と、俯瞰的な視点が必要不可欠となる。
病院長は診療の実績を通して選任されるが、就任したばかりの者は病院長を以前に経験したわけではなく、病院に関する経営学や医事制度に関する十分な知識もない素人からスタートする。それぞれの専門分野の研究者であり、教育者であり、診療の実績もある。専門分野での自信はあるが、組織のトップとしての実績はない。
宮坂信之氏(東京医科歯科大学名誉教授)
私も当初は非常に困った。ただ、一言で言うと、その人の背中を見て皆が付いていこうと思えるリーダーであることが大切だ。しかし、経営の知識や経験はすぐには身に付かないので、私は当時、井上さんに経営参謀をお願いした。経験が不足する部分を経営の専門家に担ってもらうことで、病院の皆が話を聞いてくれた。医師だけではなく看護師から事務方まで、病院全体で同じ目標を持てるように、正しい現状分析ができていなければいけない。
現状分析は、データに基づく必要があり、それは客観的なデータでなければいけない。病院経営の専門家が参謀としていたから、数字や判断がぶれることはなかった。その結果、皆が付いてきてくれたと思う。
井上:経営参謀は大切ということ。
井上貴裕氏(千葉大学医学部附属病院・副病院長、病院経営管理学研究センター長、ちば医経塾塾長)
宮坂:非常に大切。私心があってはならないし、客観的なデータを提示してくれなければならない。病院長が判断するためには、タイムリーな提示も必要だ。経営参謀の重要性は高く、井上さんの「ちば医経塾」のように病院経営を系統的・包括的に取り上げる取り組みも必要だ。例えば、SWOT分析を行い、病院の強み、弱み、機会、脅威などに対する正確かつ客観的なエビデンスを、経営者は求めていかねばならない。
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