【国際医療福祉大学大学院 医療福祉経営専攻 教授 石山麗子】
いよいよ次期介護報酬改定の議論も大詰めとなっている。AIケアプラン、ICT化等、日常業務の変化を敬遠しがちだったケアマネジャーにも意識の変化が生じている。国の方向性だけではなく、従業者のこうした意識の変化を踏まえ、経営者にとっては、テクノロジーを活用することの効果、導入コスト、事業所内の役割調整など、どのようにバランスを取るべきかなどが、関心の高いところだろう。
AIケアプラン実装のフェーズを見越したキャッチフレーズのようなものも見られるようになった。例えば、AIケアプランソフトを導入することで業務が効率化される。その分、居宅介護支援事業所のケアマネジャー1人当たり担当件数の上限は緩和され、事業所の収入増が見込まれる、という意見である。私の立場から見れば、決して楽観視はできない。少なくとも、これまでの居宅介護支援事業所の、報酬の構造から見れば、そのようなロジックは成り立たないからだ。
居宅介護支援事業所の基本報酬は、医療の質を構造・過程・結果という3つの側面から評価する「ドナベディアンモデル」で言えばアウトカム評価ではなく、プロセス評価である。厚生省令第38号に示された、人員配置基準を満たした環境で、同第13条に規定されたケアマネジメントプロセスを適切に実行することへの手間に対して支払われている。厚生労働省は、報酬の影響調査の中で定点的に「タイムスタディ調査」も継続している。それらのデータを踏まえて、報酬が設定されてきた経緯がある。私が介護支援専門官であった時にも、ICT化された場合に想定される業務時間と照らし合わせ、業務時間の減少と基本報酬の関係を計算したことがあった。
AIケアプランソフトの導入効果が業務効率化なら、ケアマネジャーの手間は減る。つまり、基本報酬は下がる。もしAIケアプランの導入効果をケアマネジメントの質とした場合、質の評価基準を仮に利用者の心身状態の改善とするなら、報酬上の評価が行われるかもしれない。このような考え方は加算に該当する可能性が高く、実現するには一定の効果に関する寄与度の証明が必須となる。
先日の社会保障審議会・介護給付費分科会には、施設へのロボット導入の評価指標に、介護職の疲労感軽減のデータが示されていたが、同様の評価指標がケアマネジャーの報酬の議論に有効とは言えない。研究事業と成果が出るまでの期間設定も含め、周到な準備が必要である。
このような2021年度介護報酬改定に関連し、語ることを期待されているかもしれないが、現実的には大きな変化はないとみている。国の立場を想像すれば、報酬を下げたい財政状況である。一方で事業所の立場に立てば、人材確保を含め、コロナ禍で極めて難しい経営を迫られ、従事者と共に努力を継続している。そのような中、報酬の増減などドラスティックな変化を起こせる状況にはない。
財務省から出された厳しい実態を反映せず議論している、今の社保審に違和感はあるが、一方で現実的には急カーブは切れない。ただ我々としては、
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