【一般社団法人福祉の現場ICT活用協議会 代表理事 藤原士朗】
私が経営する株式会社ソニックガーデンとケアコラボ株式会社はいずれも、クラウドサービス(インターネット経由で利用できるシステム)を活用して、フルリモートワークで全国に社員が分散して働いています=イメージ=。お客様との商談も全てオンラインで実施して、場所が離れていることが障害にならない働き方を実践しています(リモートワークに関して詳しくはこちらのサイトを参照ください)。
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■クラウドはICTを民主化した
フルリモートワークのために使用するサービスのほとんどは、誰でも利用できるものばかりで、自社専用に自作したものはほんのわずかです。最近ではZoomというオンラインテレビ会議のツールが有名になりましたね。その他、マイクロソフトやGoogleも安価でサービスを提供しているので、私たちのような小規模な会社でも、最先端のサービスを簡単に利用できる世の中になりました。
一昔前は、企業が利用するシステムの多くは自社専用に開発しなければならず、多額のお金が必要でした。そのため、大手企業以外は優れたシステムを利用できなかったのですが、クラウドサービスは初期費不要で少人数から利用できますので、資金力は問題にならなくなりました。クラウドサービスは“保有から利用へ”と、システムの使い方を変えました=図1=。車で言えば、マイカーという選択肢に加え、シェアカーというサービスが始まったことで、大きな初期費やメンテナンス費を払うことなく、使いたい時に使った分だけお金を払えば、車を利用できるようになったことと同じ変化です。
図1
世界中のIT企業がクラウドサービスを開発・提供しており、ちまたには多くのサービスがあふれています。メールやチャット、テレビ会議やデータベースを構築できるシステムをはじめ、最近ではナースコールやインカムもクラウドサービスで提供され、スマホさえあればすぐに利用できるようになっています。クラウドサービスの登場によって、誰もがICTを利用できる環境は整いました。どんな業界、どんな規模の組織でも、その気さえあれば、いつでも世界標準のICTが活用できるのです。
■福祉の業界で一向に広まらないICT
5年前にご相談いただいた介護事業者さまは、職員数が400名を超える比較的規模の大きな社会福祉法人でした。元システムエンジニアの方が情報システム部として在籍されていましたし、グループウェアや給与管理システムなども民間企業と変わらないレベルで導入されていました。
福祉の業界について門外漢だった私は、このICT活用の度合いがスタンダードなのだと理解していたのですが、「ケアコラボ」を全国の法人に展開していく中で、実はレアなケースだったのだと思い知りました。なお、社会福祉法人の9割は100名以下の小規模な法人ばかりです=資料=。
資料 第1回社会保障審議会福祉部会「社会福祉法人基礎データ集」より
小規模な法人では、ICTに詳しい人材を内部に抱えることはとても困難です。IT業界から技術者が転職してくることは、現実的な話ではないでしょう。ちなみに、これは福祉業界の魅力が不足しているからではないと私は考えています。
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