【国際医療福祉大学大学院 医療福祉経営専攻 教授 石山麗子】
厚生労働省は、3密を避けるために現在滞りがちになっている介護支援専門員の法定研修を、第2次補正予算によりWeb受講できる仕組みを作る。内閣府の規制改革推進会議では、サービス担当者会議のWeb開催の恒久化が提言された。介護業界におけるデジタライゼーションは自明で、もはや躊躇する必要はなさそうだ。とはいえ、「大丈夫だろうか?」という一抹の不安がよぎる。
新型コロナウイルス感染症の拡大よりも以前に実施された、居宅介護支援事業所(以下、事業所)を対象とした調査結果では、ケアマネジメントプロセスにおけるICT機器の利用状況について、「利用している」が8.4%と1割に満たない実態がある(※1)。その後、新型コロナの影響を受けて状況はずいぶん変わり、例えば4月以降、全国の大学が授業のオンライン化に向けて着手し、6月1日にはほぼ100%を達成した(※2)。しかし、ケアマネ業界に関しては、期待しつつもそう簡単にはいかないだろう。ケアマネ業界のデジタライゼーションのためには、少なくとも次の3つが懸念される。
(a)他業界から指摘され続けてきた、ケアマネ業界のITリテラシーの低さ
(b)1人1台端末と、安定したインターネット環境の整備およびコスト調達
(c)Zoom会議など同時刻に複数のケアマネが会議に参加する際の、個別ブースの確保
どんなに政府が法定研修のWeb受講を可能とし、サービス担当者会議のWeb開催を継続的に許可しても、それを実現できる環境と対応できる人材がいなければ、実態は変わらない。(a)の、ケアマネ業界の「ITリテラシーの低さ」とは本当だろうか。ケアマネジャーは果たして、今後のWeb環境に適応できるのだろうか。
ケアマネジメント専門の修士課程を有する筆者の大学院の専攻では、院生の大半は現任のケアマネジャーである。4月、例年ならば大学院の講堂で新入生を迎えるところ、今年はオンラインで迎えた。履修登録、授業、研究報告会、レポート課題の指示と提出等、全てオンラインで行ってきた。当初は、アクセスに支障が生じないか、教員からの一方通行にならないかと心配した。ところがその心配は、初期段階で取り越し苦労にすぎないことが分かった。教員発信の講義はもちろんのこと、院生発信のプレゼンテーション、またグループワークと全体共有等、想像以上にスムーズに進んでいる。
揶揄されていたITリテラシーの低さとは、これまでデジタル化しなくても業務が成立していた実態や、ICT等を経験する機会が乏しかったことが要因であって、必要となれば適応していけるポテンシャルは十分にあることが分かってきた。
上記の懸念(b)と(c)は、コストを伴うものであり、法人としての方針が問われるものだ。いつ頃までに事業所のWeb環境を整備すべきなのか、経営者にとって気になるところだ。
筆者の考えでは、
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