【国際医療福祉大学大学院 医療福祉経営専攻 教授 石山麗子】
前代未聞の想定不可能な報酬改定
連載の初回で、いきなりこんなつまらない結論を書かねばならないのは実に申し訳ない。しかし、これが次期報酬改定の最大の特徴と言えよう。今回ほど予想のつかない報酬改定は、過去にない。「前代未聞」「想定不可能」という言葉に尽きる。
筆者は介護現場を24年ほど経験し、うち約10年間は介護系の雑誌などに連載を続けてきた。3年に一度、時事ネタとして報酬改定に関する記事も書いた。社会保障審議会・介護給付費分科会、経済財政諮問会議、財政制度等審議会などの動向を追いながら、次期改定を予測してきた。百発百中とはいかずとも、8割強の予想は「当たり」という成績だった。
前回の2018年度介護保険制度改正では、厚生労働省老健局の介護支援専門官として、所管事項であったケアマネジメントに関して、「玉込め」と言われる次期報酬改定案を作成する作業から、社会保障審議会の参考資料となる調査研究の事業のセット、社会保障審議会の一部資料作成等、制度改正を行う業務にも携わらせていただいた。介護を行う実践の現場という、制度改正の様相を外から見る立場と、厚労省の中に身を置いて制度改正を動かしていく現場の、両面を経験してきた。そうした経験から見ても、今回の報酬改定は予想がつかない。
ケアマネジャーは誰よりも制度に近い存在
制度改正のたびにケアマネジャーは大仕事だ。一般のサービス事業所は、自らの改定の範囲を理解すればよいが、ケアマネジャーはそうはいかない。改正のほぼ全容を把握しなければ、適切なケアプランは作れない。新たな制度に精通すればこそ、利用者への説明も可能となる。それだけケアマネジャーは制度に最も近く、見識の広い貴重な存在だ。多くの方が、「報酬改定の結果だけ教えて」というスタンスかもしれないが、ケアマネジャーにはこうして特別な意義あるからこそ、制度を作り、改善していく根源的な考え方や、判断に至る議論のプロセスにぜひ関心を持ってもらいたいと願う。そこで今回の記事は、前半で制度に関するミニ知識を、後半では次期改定やケアマネジャーの未来について書きたいと思う。
過去の議論と判断を尊重し、未来を議論する
法改正や報酬改定は、今の現場の困り事の解決だけを行うものではない。改正の視座は、長い歴史の延長線上にある。一例を挙げれば、前回改正時、介護支援専門官であった私に命じられた役割の1つに、あるテーマに関して20年以上前、厚労省で議論された文献の確認があった。すなわち制度創設前の段階に戻って確認する作業だ。制度改正では、それほど過去までさかのぼって現行法に至る議論の流れを確認する。議論・判断に至る過程には、多くの方の労力と英知が結集される。過去の議論と判断を尊重することは、現在の議論と判断を尊重することにもつながり、未来に向けた発展的議論が可能となる。
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