地域での役割を「再編統合」も視野に見直す必要がある自治体立や公的424病院のリストを厚生労働省が公表するなど、2019年にも医療関連の話題が大きな注目を集めました。19年の前半には医師の働き方改革の枠組みも固まり、政府は、3つの医療改革を「三位一体で推進」するとしています。そうした中、宿日直許可の基準をクリアできない病院への医師の派遣に二の足を踏む大学病院も出始め、2000年代に社会問題になった医師の引き揚げの再来を懸念する声が上がっています。【兼松昭夫】
※この記事は「メディカルマスターズ」とのタイアップ企画によるものです。
写真はイメージです。
■病院に“風評被害”
「住民をはじめ、自治体関係者や病院関係者から大変大きな不安や不満の声が多数上がっている」
10月4日、東京・千代田区の都道府県会館の会議室で全国知事会の平井伸治・社会保障常任委員長(鳥取県知事)はこう訴えました。
きっかけは、厚労省が9月26日に公表した自治体立や公的な急性期424病院のリストです。民間を含む全国の急性期病院診療実績をがんなど9領域ごとに分析し、それら全てで症例数の地域シェアが小さいか、「災害」などを除く6領域が近くのほかの医療機関と競合している自治体立・公的病院のみの名前を、「再編統合」を含めて役割の見直しが必要な病院として挙げたのです。
厚労省はその上で、病床削減や機能の分化と連携・集約化といった再編統合を伴わない場合は20年3月末までに、再編統合を伴うなら9月末までにこれらの病院の役割を地域ごとに見直すよう各都道府県に求める方針を示しました。
それによって、団塊の世代の全員が75歳以上になる25年を想定して各都道府県が作った地域医療構想の実現につなげようというのです。
国と地方が共通認識を持って医療の再編を進めようと、この日は国と地方の協議が初めて開かれました。しかし、平井知事は席上、自治体立と公的病院のみを公表した国側の対応を批判し、「リストを返上していただきたい。返上できないなら民間病院も含めて全てのリストを明らかにしていただきたい。そういう公平な環境がなければ先に進めない」と危機感を隠しませんでした。
424病院のリストは、一般紙やテレビなどでも大きく取り上げられました。平井知事によると、それによって看護師が入職をためらうなど、リストに挙がったことで“風評被害”に遭う病院もあるということです。
民間病院を含めて医療の再編を促すため、厚労省は民間の診療実績のデータを各都道府県に提供する方針で、それを公表するかどうかは都道府県側に委ねられました。平井知事は、民間のデータを公表するよう国に求めていただけに、都道府県側の対応によってはもう一波乱あるかもしれません。
■地域医療構想の確実な実行を首相が指示
18年6月に閣議決定された骨太方針2018では、国の財政健全化計画を推進するための社会保障分野の重点課題の一つに「医療・介護提供体制の効率化」を挙げ、それぞれの病院が地域の中で25年にどの診療機能をカバーするかの「具体的対応方針」を19年3月末までに作るよう促す方向性を打ち出しました。中でも、税制面で優遇されている自治体立や公的病院には、民間がカバーできない急性期や不採算医療などに軸足を置くよう求めています。
大半の地域では、急性期機能の病床が供給過剰で回復期は逆に足りないことが分かっています。入院医療のそうした需給ギャップを解消し、限られた資源でニーズに見合った医療を提供できる効率的な体制を整備しようというのです。
厚労省によると、自治体立・公的病院の大半が期限までに具体的対応方針を作りました。しかし、地域での話し合いが「現状追認に終始している」という声があり、厚労省は、再編統合が必要な自治体立・公的病院を「見える化」する必要があると判断しました。そのために行った分析の結果が「再編統合候補」の424病院のリストです。
背景には、医療の再編が進まない状況に対する政府の危機感の高まりがあります。18年度の病床機能報告の結果(暫定値)によると、このままだと25年には急性期の病床が全国ベースで18.8万床過剰になり、回復期機能は18.3万床が不足する見込みです。「高度急性期」から「慢性期」まで4つの機能ごとの病床数の割合は、15年度からほとんど変化していません=図1=。
5月31日の経済財政諮問会議では、地域医療構想の確実な実行を安倍晋三首相が関係閣僚らに指示しました。
図1 病床機能ごとの病床数の推移
経済財政諮問会議(2019年5月31日)の資料より
■大学病院が医師の派遣に難色
リストの公表に先立ち19年3月には、医師の働き方改革の大枠が固まりました。勤務医の時間外労働(残業)を24年4月以降、原則として「年960時間以内・月100時間未満」(休日労働を含む)に罰則付きで規制する内容で、それに向けて医療現場では、他職種へのタスク・シフティング(業務移管)などで勤務時間の短縮を進め、病院のトップや現場の意識改革にも取り組みます。
勤務医の過酷な勤務環境の改善は不可欠とはいえ、国のそうした方針には、病院団体などが反発してきました。医師の働き方改革を進めながら病院の機能を維持させるには、より多くの医師を雇用しなくてはならないからです。医師の偏在解消が進まない中、十分な体制を整備できなければ規模縮小を迫られかねません。
そうした中、宿日直の許可がない病院への医師の派遣に難色を示す大学病院が出始め、2000年代に社会問題化した医師の引き揚げの再来を懸念する声が上がっています。西日本にある大規模病院の関係者は、医師の引き揚げを病院が打診されたという話を最近、「ちょくちょく耳にする」と言います。一方、首都圏のある大学病院の関係者は、宿日直の許可がない病院には「(医師を)もう派遣できない」と話しています。
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