【一般社団法人リエゾン地域福祉研究所 代表理事 丸山法子】
あなたの事業所では、介護サービスを利用して日々の暮らしを送っている方々のことをどのように呼んでいらっしゃいますか。その人のお名前を「○○さん」と呼ぶのはもちろんですが、総称としての呼び方は大きく分けて「利用者」「お客様」の2つでしょうか。また、事業所の方針によっては個別にお声掛けする場合に、「○○おじいちゃん」「○○おばあちゃん」など、お互いの距離感を縮めるために愛情を込めてそう呼ぶこともあるかもしれません。もちろん、相手がこう呼んでもらいたいという意思があればひとまとめにせず、そこに個別に寄り添う関わりがプロの証しと言えます。
実際の現場では、そうした事業所の方針が、例えば入職したばかりのパートさんに至るまで、伝わっているでしょうか。漏れなく共有できているなら、組織マネジメントが機能しているということですね。
実は、ある介護施設を担当し始めた知人の社会保険労務士から、こんな質問を受けました。「私の感覚が合っているのかどうも分からなくなって」と言うのです。詳しく聞いてみると、顧問先の入所介護施設のあちこちで「年寄り」という言葉がよく耳に入ってくるとのこと。「年寄り?」「そう、年寄り」。思わず聞き返しました。
担当している入所者のことを「うちの年寄りは」と、廊下や食堂、スタッフルームで職員同士が普通に会話しているのを聞いて、「介護施設はそういうものなのか? なんだか違和感を覚える」と言うのです。「もしここに、自分の親が入所することになったらと考えたら、生活者感覚のない施設には託したくない」と思ったそうです。確かに、健康な人から年寄り呼ばわりされてうれしい要介護者はいないはず。後日、この生活者感覚のない事業所に、実は深刻な問題が山積しているのを目の当たりにして、「あぜんとした」と言っていました。
■生活者感覚は、介護生活をまだ知らない人の感覚
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