【北海道介護福祉道場 あかい花代表 菊地雅洋】
■ケアマネジメントは生活上の課題を改善できる
ケアマネジメントにおいて、高齢者の課題やニーズを、単に身体的な機能障害(インペアメント)として捉えないことは、一番重要な視点といえる。
従来の医学モデルであれば、例えば、脳卒中による片麻痺を身体的なインペアメントと捉え、それに伴う歩行障害を能力障害(ディスアビリティー)とし、リハビリなどの治療的方法で対応する。
ケアマネジメントでは、インペアメントとディスアビリティーだけでなく、社会的不利(ハンデキャップ)の観点からも、その人がどのような問題を抱えているのかを捉える。つまり、生活モデルに立っていることに特徴がある。
要介護者がどのような家族環境や地域の環境の中で生活し、その中で障害が不利に働いていないかも課題の一つに挙げる。身体的な機能や能力に障害が残ったとしても、家族や地域の環境を調整することによって、生活上の課題が改善できるという立場だ。
要介護高齢者の課題や障害は、生活に強く結び付いているという視点が重要だ。だからこそ、ケアマネジメントでは、その人の生活全体を見て、継続的にフォローしたり、その人が本当に望んでいることといった個別性に目を向けたりすることが不可欠だ。このことを理解しているかどうかで、ケアマネジメントの質は大きく左右される。
ケアマネジメントの目的が、生活の全体性や継続性、個別性に目を向ける支援であるならば、そこには身体機能のレベルだけでは解決できないさまざまな問題への援助方法があってしかるべきだ。その視点に立てば、必ずしも「軽介護者には身体介護以外の生活援助は必要ない」といった結論にはならないだろう。
特に加齢による廃用という自然摂理に起因する生活課題には、生活援助を適切に結び付ける視点が重要になる。足腰の衰え、視覚や聴覚、味覚の減退は、ADLよりIADLの障害として現れてくることが多い。軽介護者に対し、必要な家事支援を適切に結び付ければ、暮らしの質が維持できる。
ところが、この家事援助が「過剰支援」であるとし、その原因をケアマネジメントの質に求める向きがある。しかし、それは違う。
■給付抑制の手段として利用されるケアマネジメント
そもそも不必要で過剰なサービスを盛り込んだケアプランが本当に存在するなら、その根本原因はサービスの提供主体と、その計画を立てるケアマネジャーを“パッケージ”で運用する方が、利益を得やすく、生産性が高まりやすくなるという制度自体にある。つまり、介護保険制度の設計上の問題といえる。
ケアマネジャーが自社併設の居宅サービス事業の利益を考える必要がなく、ケアマネジメントだけで飯が食えるようにすれば、問題解決の方向に大きく動くはずだ。しかし、これまでの在り方によって利権を得ている連中は、根本原因に手を付けることなく、居宅サービス計画に一定回数以上の生活援助を組み込めば、市区町村に届け出させる解決法を選んだ。
「これ以上は、届け出が必要だから面倒だよ」という心理的負担を与えることで、生活援助を計画に盛り込む回数を抑制しようとしているのだ。
つまり、ケアマネジメントが給付抑制の手段であるマネジドケア※として使われている。それは、サービス利用者の立場から生活の支援を進めるというケアマネジメントの目的に反したものだ。
ケアプランには利用者のニーズに合わせる特性を持たせているが、一方で給付抑制につながりやすい。ケアマネジメントの諸刃の剣として、負の側面があるという指摘を受けていた点であり、非常に危惧される問題だ。
※医療の効率化により、医療費を抑制することを目的に、米国から広がった医療保険システムといえる。
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次回配信は10月31日5:00を予定しています
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